AnDrew’s小生意気レビュー記

作品の感想レビュー記事をメインに投稿しています。作品への造詣を深め楽しみつつ、それを他の方々とも共有できる場になれば。よろしくお願いします。

紅茶には黒蜥蜴星の塩を

Princess Principal/プリンセス・プリンシパル

case2「Vice Voice」(第3話)

感想レビュー

 

前回ラストの引きのシーンに続き、アンジェとプリンセスの会話から始まる本編。case1本編中では表情や声の抑揚の変化が少なく冷静、冷徹という趣を強く感じるアンジェだったけど、プリンセスと2人のこのシーンではむっとした表情や砕けた朗らかな表情といった感情豊かな様を見せたり、プリンセスに対して自然な声色になったりと、前回における2人の絡みのシーンや「(スパイ以外に)他に壁を越える方法が無かった」などの会話の中の台詞回しと併せ、この2人が既知の仲であり他の人間の前では見せようとしないような関係性にあることをキャラクターを通じて示し、序盤から細かく積み重ねているのが上手いところ

コントロールの目を掻い潜ったことであとは2人で逃げようと言うアンジェに対し、プリンセスはスパイとなったアンジェにその力を貸して自分を女王にして欲しい、と告げる。その言葉に2人の幼い頃のある出来事を思い出すアンジェ。(後のエピソードでの言及になるけどここの会話も全話観たの踏まえるとめたくそに響いてくるんだよね、10年前に交わした言葉に対する10年越しの想い...)しかしアンジェはプリンセスをスパイの殺伐とした世界へ巻き込むことに、今までと打って変わって声を荒げ感情的になり反対する(ここもアンジェのプリンセスに対し抱く感情の大きさを感じるところ)。そして病院に運び込まれたモーガンが機密保持のためにコントロールに始末されたという事実が語られ、本作のダーティで容赦の無い世界観をグッと実感させてくるのがまた抜かりない。

それでも「2つの国を隔てる壁がなくなれば一緒にいられる」「自分達を隔てるものもなくしたい」というプリンセスの決意は揺るがず。アンジェは深い葛藤を感じる表情でのしばしの長考の後、プリンセスの意志を受け入れる。昇る朝日を背に
「私が騙してあげる...

あなたも、世界も、そして、

私自身すらも」

と発しながら...

眩い光に背を向け、プリンセスでさえも自分の姿が分からないほどに自身の姿を逆光で黒く染め隠すアンジェ、というアンジェのスパイとしての強い覚悟を示すようなこのカットからOPへの入り、があまりにカッコ良すぎてここの演出はまさに今回の白眉。レビュー感想を通じ、こうした演出について言語化しより深く解釈できる機会ができたのは本当良かったなぁと改めて思う。作品がより楽しい。

 

場面は変わりクイーンズ・メイフェア校、プリンセスに対し昨晩の共和国スパイへの仲間入りを強く反対しむっとする、凄くナチュラルに一国の姫様のお部屋にお邪魔するドロシーとアンジェに声を荒げる、と相変わらずご機嫌斜めのベアトリスが描かれる。ちなみに本筋とはあまり関係ないんだけど、プリンセスとの関係を聞かれた時の言い訳を考えたドロシーが「男装趣味」を挙げた直後にスカートを股に挟んで男子っぽい格好してるシーンが地味に好き ユーモア利かせてるドロシーはかわいい 二十歳でJKのフリしてっけどry

全然関係ないけどドロシーの20スパイってあだ名秀逸すぎていつも笑うんだわ

更にプリンセスを作戦要員として組み込んだミッションのことを聞かされ、いざという時にとプリンセスそっくりに成り代わるアンジェの姿を見て、とプリンセスの身の安全を不安にさせるような情報を出されベアトは声を荒げる。その時、ベアトの声がノイズがかったように乱れ彼女は部屋を飛び出していってしまう...と、ここでベアトの過去が明らかにされる形に。機械狂いの父親によって喉を機械に改造されてしまい、母から見放され、周囲からも心無い仕打ちを受け、そんな中でプリンセスに友人になろうと手を差し伸べられたことで彼女に心を開き...ちなみに、現在1巻が刊行中のコミカライズ版「プリンセス・プリンシパル」では、ここの友人として手を差し伸べた部分のちょっと詳細な描写や、そもそも侍女にベアトを選んだ流れのきっかけなどが少し描き加わっており、割と見応えありなのでオススメです。ファン諸氏は是非

「プリンセスとは黒蜥蜴星の幼馴染み」と嘯きプリンセスに近付くアンジェ達に不信を抱くベアトは、プリンセスを守れるのは自分だけ、と覚悟を決める(ここのベアトの台詞からプリンセスの周囲がただでさえ王国側でも不利な立場にあることが示唆されており、この辺の細かい設定も気にして台詞を追うと楽しい)。

 

ここからミッションが始まり、陽動に動くプリンセスとドロシー、飛行船内にある共和国紙幣の原版回収に動くアンジェと彼女に相対しようと着いてきたベアト、の二手で物語が進行していく。陽動作戦にて、case1でもやりかけたけどやらずじまいになった色仕掛けを使い立ち回るドロシーが非常いたくましくて好き 強かな女性は良い

一方、ベアトは成り行きからアンジェに強く不信を抱きつつも行動を共にすることになり、アンジェもベアトを連れ作戦を進めていく。プリンセスのため覚悟を決めたベアトに対し、スパイの世界の非道な事実を淡々と突き付けながら、プリンセスを想うならここで果てろと得物を向けベアトに情け容赦無くかかるアンジェの振舞いはアバンのプリンセスに対するそれとは真逆で、この後の作戦行動の手並みもそうだがスパイモードの彼女の冷徹な雰囲気がよりいっそう際立つ

情報を着々と掴み、上空を迸る落雷に一度は気を失ったり、侵入に感付いた敵の猛攻に晒されたりしながらも華麗に立ち回るアンジェ。無重量状態を作り出す主武装「Cボール」を使い船体上を駆け回る姿や相手を俊敏な動きで捌いていく戦闘シーンは作画の崩れもなくきびきびと動くので実に見応えアリ 本作のテーマ的にしっかり描くところを押さえてるのが伺えて良い

しかし戦闘中のアクシデントによりアンジェは負傷、火の手が回り追い詰められる中、アンジェは唯一の脱出手段である焼けずに済んだパラシュートと紙幣の原版をベアトに渡し1人脱出するよう促す。アンジェを討つつもりで着いて行く中で、危険に晒されながらスパイとして任務を命を懸けこなすアンジェに対し、涙を浮かべながら彼女を気遣うような悪態を突く。

「もうっ!なんなんですかスパイって!!任務がそんなに大事なんですか!?お給料がいくらか知りませんけど、国とか主義とかそんなもののために命を懸けてるんですか!?死んだら終わりじゃないですかぁっ!!」

そんなベアトに、アンジェは力強い語調で言葉を返す。

「ベアト...私はここで死んでもただのスパイよ...でも、貴方が捕まったらプリンセスが疑われる!そんなこと絶対に許さない!!

今まで見せなかった強い視線と共に発せられたアンジェの言葉。その言葉を受けたベアトは、自身の機械の喉を使った変声能力により部屋に迫る兵隊達を撹乱、途中アンジェの助力を得ながらも、彼女の危機を救ったのだった。

幾つもの嘘を重ねプリンセスを陥れようとしていると思っていたスパイの少女の中に宿っている、任務の中でさえも命を懸けてプリンセスを想う嘘偽りのない本気の信念をベアトが垣間見て、自身の人生の陰の象徴だった機械の喉を武器に勇気を振り絞り戦う、という熱い流れを、アンジェとベアトの本気の語らいで描いた名シーン。やっぱり凄くグッとくるなぁここ...
危機を脱し、1人分のパラシュートと崩壊寸前のCボールを使った命がけの脱出に挑む2人。落下していく最中、涙を散らしながらベアトはプリンセスへの想いの丈を叫ぶ。

「私は姫様が好きぃーっ!!姫様の優しさも!上品さも賢さも!みんな大好き!だから私が姫様を守る!!守って守り抜いて、姫様の隣に相応しい女の子になるーっ!!」

健気に叫ぶベアトに見えないように静かに微笑みかけたアンジェもそれに続く。

「私は!プリンセスなんて大ッ嫌ぁーい!!!」

「やっぱり、嘘つきですね、アンジェさん」

スパイの流儀に則り発したアンジェの嘘の裏の想いを知るベアトは静かに言葉を漏らし、共に大地に降り立った。

 

任務を終え、学校で机を囲むアンジェ達。いつもの調子で嘘を吐きまくるアンジェにベアトは紅茶を差し出す。「紅茶は塩派」と真顔で返すアンジェに、ベアトは「黒蜥蜴星のお塩」と彼女の嘘の常套句を用いて機嫌良さげに砂糖を差し出し、彼女との嘘を交えたやり取りに楽しげに興じるのだった

というとこで本編終了。

口から発する言葉、プリンセスそっくりに成り代わる様、と嘘に塗れたアンジェに不信を抱くベアトリスが彼女の中の本気に向き合い、自身の陰を乗り越え自らの武器とし、勇気を振り絞って立ち上がり、関係を深める流れを丁寧に描き上げた良い回でした。レビュー感想を通じてより深掘りしてみた結果、その描写の事細かさに改めて舌を巻かれ、よりストーリーやキャラへの愛着が増しました。

 

あとこれはちょっとした補足なのですが、レビューを書くにあたり今まであまり気にしてなかったサブタイの英語の意味を調べてみたのだけど、今回のサブタイ「vice voice」の『vice』とは、「悪、非行、(性格上の)欠陥」などを指し、転じて「〜の代わりに、〜の代理として、副〜」という意味もある言葉だそうです。つまりはベアトリスの機械と化した喉からの偽りの声、アンジェが発する嘘だらけの言葉(≒声)を指したサブタイだったのかなぁ、と思ったり(同時に、ベアトがそれを自身の武器へと変える流れや、アンジェが嘘の無い本気の言葉を発する流れなど、それらの負のイメージが転じるクライマックスの展開も踏まえたものでもあるのかも、とも) サブタイも掘り下げるとまた新たな発見があって良いなぁ

 

今回はかなり熱入って書きまくってしまいました() 感想レビューって楽しいね!!

では今回はこの辺で ではまた