AnDrew’s小生意気レビュー記

作品の感想レビュー記事をメインに投稿しています。作品への造詣を深め楽しみつつ、それを他の方々とも共有できる場になれば。よろしくお願いします。

夢物語の先へ

ウルトラマンコスモス

第13、14話「時の娘(前/後編)」

感想レビュー

 

 

太田愛さん脚本回だぜ!!

しっとりとした空気感の下で登場人物の心情・信念を印象深く描き出す人間ドラマの緻密さや、そのストーリーをより引き立てる形でSF設定をしっかりと描写し怪獣や宇宙人も話の中心にしっかりと据える特撮ヒーロー作品としての面白さも押さえた作劇が魅力の、非常に印象的な名エピソードを数多く送り出すことに定評のあるアルゴナ回とかクラウドス回みたいなイカれた話が極稀に飛び出すことにも定評のある平成ウルトラシリーズの名物ライターの一人・太田愛さんのコスモス初登板回にして、コスモス初の前後編エピソード。2話かけたちょっとした長編なのもあり今回も素晴らしいエピソードを仕上げてくださいました。太田愛さんは個人的にウルトラシリーズで特に好きな脚本家さんの一人なので、今回のエピソードも凄く面白くて実に満足ですねぇ 太田愛登板回の視聴でしか得られない栄養がある...

 

今回の話はゲストキャラ・レニとの関係性を軸に据えたムサシの迷いと決意、そして成長が中心となって描かれるストーリー。

今回のムサシは、保護したレニとの交流の中で彼女に強い情を抱いたことで、死から甦らせられた彼女に再び人としての生を与えたいと独断専行し、侵略者の手先かもしれないという可能性を踏まえやむなくコールドスリープされようとしてた彼女を組織に背いて庇ってしまったり、レニの一件もあって感情的になるあまり、インフラに被害が出たことで怪獣ガルバスの保護が実質的に打ち切られてしまったことにんなことで怪獣の保護を諦めるなんて馬鹿げてる」と吐き捨ててしまったりと、良くも悪くも私情を剥き出しにした言動が強調されており、怪獣保護という夢の前に立ち塞がる現実を理解しきれていない(ムキになって蔑ろにしてしまった、と言う方が正しいかも)など、理想に燃える熱い一面の影に残る未熟さ・思慮の浅さが窺える描かれ方をしていました。この辺は序盤に第2、3話でもフォーカスされ、且つ第3話では反省と成長も描かれはしたものの、何か一つの存在の尊厳を重んじるあまり他に目がいかなくなってしまうことがある、というところでこの段階ではまだまだ成長途上だなぁと。ムサシを話の中心人物としてその成長を描くにあたり、ここにしっかり触れて掘り下げるのは良いアプローチだったなと思います

そして、ムサシが理想の前に存在する壁に向き合うことの出来なかった自身の未熟さや、何かを護ろうとしてもそれを思い通りに為せない自分自身の無力さを噛み締めるかのように挫け理想を諦めてしまおうとしてた時、レニが最初は夢物語だと言われてきた物事を幾つも実現させてきた人類の夢の歴史を語ると共に、ムサシの「人間と地球に生まれた怪獣が可能な限り共に生きる未来」という理想がいつか叶うと信じてきた意志に呼びかけ再び立ち上がらせる、という流れ、ここは凄くグッときましたね。宇宙ステーション、地球の形の証明、大陸への航海、飛行機での飛行」など人類が鼻で笑われながらも実現してきた事を幾つも挙げ、ムサシの理想も今は夢物語でも信じ進めばいつか実現する、と生前宇宙ステーション建設にかけてきた理想や情熱を思い出したレニが諭すという流れは、彼女が自分のかつて生きた証に今一度向き合った強さや、ムサシの優しさや信念を大切に想う心情といったレニの内面が魅力的に掘り下げられて彼女のキャラがしっかりと深められていると共に、そこからムサシに向け放つ言葉の重み・説得力がとても大きなものとなっていて胸に響くものになっているなど、非常に巧く構築されたものになってて見事。

サブタイの「時の娘」「人類が時を越えて夢を継ぎ生み出してきたもの」としてレニがムサシに託す想い、引いては今回のストーリーのテーマをいっそうグッと引き締めるものとして意味が繋がるようになっており、こういうところでドラマ性を徹底的に深める抜かりなさが太田愛脚本の魅力だなぁと改めて思った次第でした

にしてもムサシ、前編では明らかにレニを異性として意識してるような行動や仕草が多く見られることや、前述したような自分を立ち上がらせてくれたことなど、レニに相当特別な思い入れを抱いてるよなぁと。今回の出来事を通じて忘れられないかけがえのない存在となっただろうなぁ...と思う

そういえば今回何気にレニを追う特殊部隊の1人としてコスモス準準レギュラーの石井さんが出てたなと。今後もちょいちょい出るぞ

 

また今回の物語で強い存在感を発揮したのが、シノブリーダー。前編冒頭におけるムサシとの日常の会話という他の登場人物との関係性の印象付けをはじめ、怪獣保護のことで感情的になるムサシに対しライフラインが止まれば病院や乳幼児、老人が最も被害を受ける」という見失ってはならない現実をきちんと示し諌める下りレニの覚悟をしっかりと見て信じ送り出す様など、冷静に物事を見極める目を持つ一面、およびその裏に燃える人の想いや覚悟を信じる熱い一面の両方を持ち合わせるカッコいい人物として前後編通してしっかり描かれてて非常に好感でした。レニの確保を任務として出動し追い詰めた際も「貴女が悪くないのは分かってる」と言っていたり、レニの想いを見極めたとなったら「気が変わった」とだけ言って迷いなくそれを手助けしたりと、多くを語らないながらもクールビューティーな魅力が光る言動が多くあってカッコ良かったなぁ...

後述するワロガの目的を街の人々の言葉に視点を移したことで看破したりと、視野の広く物事を多角的に見つめることのできる「真実を見極める『目』」というEYESの本懐をしっかりと為す人物として描いてるのがまた上手いなぁという感じでしたね。当初は怪獣保護の現実に押し潰され負けそうになっていたところを、ムサシの姿に感化されて再び理想を取り戻しこうして頼れる部分をしっかり見せられるようになったのだと思うと、そんな彼女が今度は回り回ってムサシを諭し導く存在になっているのもまた熱い。

あと日常パートの会話なんかはこれまで意外と描かれてこなかった描写だし、リーダーの優しい雰囲気なんかも窺える場面となっていたので個人的に地味に好きなところ

 

そしてそんな今回のストーリーの負の主役と言っても過言ではない存在、邪悪生命体ワロガ。人型のオーソドックスなシルエットの全体に、のっぺりとした無機質さが感情の類を感じさせない不気味さが濃く押し出されたまさに「エイリアン」という感じのスマートなデザイン性もさる事ながら、ガルバスを操り暴れさせることで人類に怪獣への不信感を後押しし、引いては他の生物に対する殲滅思想をも芽生えさせ人類を自滅へ導こうとする狡猾さや、死した命であるレニを傀儡として蘇らせてEYESの混乱と動きの抑制に利用することで前述の作戦を円滑に動かす悪辣さといった、今回のストーリーの裏で全てを思うままに操り嘲笑っていた「邪悪生命体」の名に相応しい立ち回りなど、改めて見てもやはり素晴らしいキャラクターだなと実感しましたね。コスモス/ムサシやEYESの在り方の丸っ切り逆を行く対比的なキャラクター性が、この前後編の中でライバルポジションのカオスヘッダーに負けず劣らず表現されている強烈さもあって、以前より個人的なコスモス怪獣・宇宙人の中でも特にお気に入りのヤツです。

ワロガ自体は本編中で一言たりとも言葉を発することはないのだけれど、レニやガルバスといった罪なき命を弄んで利用する外道さが作劇の中でしっかり表現されていますし、またその一言も言葉を発さない無機質さが寧ろ相互理解不能な感じを印象付けてきてるというこのキャラクター性の印象付けも見事で、ここも太田愛さんのキャラ付けの巧さに感心させられますね。ちゃんと憎らしい巨悪として印象に残るんだよなぁ

またフォロワーさんがワロガについて「人類に怪獣排斥の考えを植え付け自滅に追い込んでいく回りくどいやり方をしてるのは、本気で侵略する気がなくて不気味」と仰ってたけど、たしかに実際ワロガってコロナモードを1vs1で圧倒できるくらい素の戦闘力は高い(後の再登場エピソードでもその戦闘力の高さを窺わせてるし)から普通に攻めてもけっこう良いとこまで侵略・制圧をなし得てしまいそうなのに、それをこういう遠回りながらも狡猾で悪辣な手段に打って出てる辺り、人類を弄び、緩やかに破滅していく様を見ることが主目的な感じもあってそこはなかなか不気味だなぁ...と。自分が攻めるリスクや手間を省きたいからかも、というのも想像されるけどいずれにしても悪賢く非道よな(フォロワーさんはこの感じをメフィラス星人とも通ずるものがあると例えていたけど、思えばワロガの全身黒づくめなカラーリングや発光器官の雰囲気はちょっとメフィラス星人っぽさあるかも...と深読みしたり。平成版メフィラス的なコンセプトだったのかも)

フラギイ on Twitter: "ワロガが目先の怪獣1,2頭を生存させて攻撃するよりも、人類に怪獣排斥の風潮を根付かせて傲慢にしていけばやがて生物として自滅するだろうみたいな迂遠なやり方してるの、本気で侵略する気があるかどうかわからなくて不気味だよね"

フラギイ on Twitter: "初代メフィラスは行動に粗があっても「まあ真剣に侵略する気あるか怪しいし多分サブタイ通り遊びだろうし」ってことで余裕の表れとして見てもらえるのがずるい。2代目はあれで全力だから… ワロガの本気かどうか怪しいのもそんな感じ"

 

そんなワロガの邪悪な横暴を目にしながらもレニの命が実質的な人質にされているために変身を躊躇ってしまうムサシに対し、レニは「私を人間に戻して」と切なる願いを伝え、ムサシもそれを受け止めコスモスへと覚悟の変身、とここの2人のしっとりとした儚くも沁みるやり取りも凄く響いたね...ムサシとの出会いや思い出がワロガの手の内で導かれ為されたものであっても、そこで触れ合ったムサシのことを自分自身の意志で信じ想いを託すレニ、あまりに気高い...敬意を表する。託されたレニの想いを込めるように光を集めた後コスモプラックを掲げる、というムサシの特殊パターンの変身もカッコ良かった。

 

そしてここから繰り広げられるコスモスvsワロガ戦。平成ウルトラシリーズの夜戦シチュというだけでも無条件で燃えるのに、ピアノの切なげな旋律をBGMに激しい攻防が行われる構図が、レニの想いを背負いムサシ/コスモスが戦うという流れも相まって独特な味わいがあり、なんとも堪らない。燃えるコロナモードの赤と、闇に溶け込むようなワロガの黒がそれぞれ夜の背景に映え、両者の姿を足元の湖面が美しく映し出すという構図も芸術的でここは流石の演出だな...という感じでしたね

ここからの流れも、姿を消しながら軽やかに立ち回るワロガの動きにコスモスが翻弄される中レニが湖面に映るワロガの姿を捉えたことでコスモスがワロガを捕捉し形勢逆転、とワロガの手駒に過ぎなかった筈のレニが怒りを込め一矢報いる形になっていてとても熱く、更に弄ばれた生命全ての怒りを込めるようにコスモスが重い連撃を次々繰り出し、トドメのブレージングウェーブで粉砕するフィニッシュも実に痛快で最高でした。やっぱり人形爆破は気持ち良いぜ。コスモス序盤の名バウトの一つと言っても良いでしょう。

 

それ以外のところでも、操られたガルバスの進行を止めるために出動した防衛軍の戦車部隊・ベンガルズの戦闘が重量感・臨場感高めの戦車特撮で描かれたりと見応えある特撮演出が多かったのも良きでしたね。個人的には道路橋越しのアングルでのベンガルズの攻撃や、夕陽をバックに進むガルバスという構図がお気に入り。

ガルバスもストーリー的にはどっちかというと脇役気味だったけど、瞳の有無で可愛げとおどろおどろしさが入れ替わる絶妙なデザイン感が面白かったりと存在感が出てて良かったですな。デカめのど頭と耳がかわいいよねガルバス

 

その後、全てが決着し、レニが人間として果てた別れの地でムサシが決意を新たにする、という形で締め。最後の描写が少し詰め気味な感じあったかな?とは個人的にちょっとだけ思うけど、ムサシの一つの成長譚として良い着地でした。満足。

 

 

以上、コスモス13、14話でした。前後編構成でのレニとの交流を軸に、自身の理想の前に立つ壁に挫けそうになりながらも、レニの想いを胸に強い覚悟を秘め再び立ち上がるムサシの成長がボリュームたっぷりに描かれる話として人間ドラマ的にとても見応えがあり、流石の太田愛さん、と改めて感心させられるエピソードでした。シノブリーダーのキャラがカッコ良く引き立ってたも良きでしたし、やはり人間の心情描写がめちゃくちゃに巧い。

ワロガという強敵の存在感も抜群、特撮面等に演出も見所多しなところも満足でしたね。素晴らしかったです ここからのムサシの躍進をお楽しみに。

 

というわけで今回はこの辺で 最後まで読んでいただきありがとうございます

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ではまた