AnDrew’s小生意気レビュー記

作品の感想レビュー記事をメインに投稿しています。作品への造詣を深め楽しみつつ、それを他の方々とも共有できる場になれば。よろしくお願いします。

“君が教えてくれたね”

ウルトラマンコスモス

第57話「雪の扉」

感想レビュー

 

 

全力で挑んだ陸上の地区大会で敗退し自身の人生にほのかに息詰まっていた暁少年と、扉が描かれたカードを手にグラルファンなる存在に出会おうとするトマノ老人の出会いと交流が織り成す、夏の不思議な一時を描いた今回の話。ワロガ回の第13、14話以来実におよそ43話ぶりの太田愛さん登板回でしたが、太田さん得意のウルトラマンおよび防衛チームをあまり登場させず、ゲストキャラに主軸を置いた味わいある人間ドラマやほんのりと醸されるSF色によってストーリー全体をしっとりとした空気感で彩る単発エピソードということで、あの独特の深みある絵作りを堪能できて実に満足でした。「少年宇宙人」といい「遠い町・ウクバール」といい、太田さんのこの手のエピソードにはハズレがないんですよねぇ

 

本エピソードの見所は何と言っても、前述の通り暁少年とトマノ老人の交流を通じて描かれた人間ドラマ。最初はトマノ老人のことをアブないヤツだと思って避けようとしていた暁がうっかりで彼のレコードを破損させてしまい修理を手伝うというちょっとしたきっかけからトマノ老人と関わりを持つようになり、そこから彼がやろうとしていることに何の気無しに興味を抱き、やがて彼の背景・人となりにも少しずつ関心を寄せていく、といった感じの自然な流れで親交が少しずつ深まっていく過程は絵面や空気感のリアルさから観ていて自ずと惹き込まれましたし、その中で2人がお互いの身の上やそれぞれが抱えるモヤモヤや寂しさを打ち明け互いを理解していく様はじんわりと沁み入るものがあったし、と実に魅力ある画に溢れていて良かったなと。

 

またそんな2人のやり取りが描かれる中で、どこか浮世離れした雰囲気と言動の節々から時折窺わせる人間臭い一面を併せ持つトマノ老人のキャラ性を見事に発揮していた天本英世さんの名演は非常に大きかったなと感じるところ。天本さんと言えばやはり初代仮面ライダー死神博士の印象が強いけど、博士のあの不敵で不気味な雰囲気とは対照的な優しく穏やかな人柄のトマノ老人は新鮮で、あの演技の幅はとても感心させられたわね

特に暁から何故グラルファンの住む思い出の世界へ行きたいのかを問われた時に見せた表情なんかは、在りし日を懐かしむような憂いとも悲しみとも取れる感情が凄くはっきりと感じ取れて、ベテランとしての繊細な感情表現の演技の深みに思わずおお...と引き込まれましたね。天本さんは翌年2003年にはこの世を旅立たれたとのことだけど、最後の最後まで人を魅了する演技を見せ続けてくれたんだなぁと。素晴らしい俳優さんでした。

 

そして後半ではトマノ老人が開いた扉の先からグラルファンが降臨。女性的なシルエットに鳥の意匠が落とし込まれた感じの純白の姿が美しいグラルファンはいつ見ても名デザイン怪獣ですよねぇ...芸術品・調度品みたいな感じでめっちゃ綺麗だよね 本編中ではほとんど動かないし映ってる時間も僅かなのに、それでもしっかりと印象深い怪獣としてその姿を記憶できてるのは、ストーリーの良さもあるだろうけどやっぱりデザイン性の秀逸さも大きいだろうなぁ 夏というシチュエーションで降る雪とか、暁達以外の時間が停止する描写とか、直接映ってないシーンでも幻想的な画が色々入れ込まれてるのも良きね

グラルファンを再び扉の向こうに返すとなった時にコスモスも軽く出てきて力を貸してくれる流れがあったけど、本当に今回のコスモスはちょっと登場して光線を使う的な行動をしただけで、身前のムサシ含めストーリー上にほとんど関与しなかったのはかなり攻めてるよねぇ この手のウルトラマンの出番少なめな話は割とあるにはあるけど、ここまで動き少なな立ち回りはシリーズ全体で見ても珍しいイメージね だけど今回の話が暁の視点およびトマノ老人との関係性に終始したエピソードなのを思うと、話全体の趣を保つ意味でも介入しすぎるのは野暮だったと思うし、ベストな塩梅だったなと思う 特撮ヒーロー作品としては物足りないかもだけど、沢山あるエピソードの一つとしてやるならば良いアクセントだし、ここは全65話という長期シリーズ故のコスモスの強みが発揮されたねぇ

 

そしてグラルファンとの邂逅を経て、思い出の世界に広がる在りし日の自身の輝く思い出を今の自分の立場から目にしたことで「あの思い出は一度きりの、昔のあの瞬間の自分のもの」であり、その時間を自分がもう一度生きることはできないのだとトマノ老人は気付き、暁も彼の言葉を受け「一度きりだからこそ忘れられないものになるし、空っぽになるくらい全力になる」のだと、全力で走り切り燃え尽きた地区大会の一時を前向きに捉えられるようになっていく、という終盤の流れも実に叙情的で沁みました。

「時間は戻せない/戻れないからこそ、人間は今この瞬間を全力で生きる」というテーマ性自体は様々な作品でも描かれているものですが、本エピソードは青春の最中でちょっとしたつまずきを経験し足踏みする少年と、長い人生を歩んできた先で自分の人生について思い返し在りし日に戻りたいと願う老人という、過ぎ去った輝かしい日々へのほのかな懐古に足を取られる2人の人間が、自分の全てを注ぎ駆け抜けたかつての時間や幸福に包まれていた過去の日々が、一度きりだからこそ強く噛み締めたかけがえの無いものであったことに気付き、かつての輝かしい日々を過ぎ去りし過去のものであり、確かに自分の人生のかけがえのない一部であると自らの意思で尊ぶという筋書きで独自の味わいを生み出していたのが凄く良かったなぁと。駆け抜けた後の虚脱感も、過去を思い返し感じる寂しさも、自分が精一杯生きたからこそだったと2人が自ら気付きを得て「今」に目を向けていくという、リアルな感じの成長を含んだ人間描写を入れ込む辺りが太田愛さんのこの手のエピソードらしくて好き このトマノ老人と暁の気付きを描く一連の描写を彩るBGMが、かつてバイオリニストだったトマノ老人の背景に準えた、しっとりとした曲調のバイオリンのメロディなのがまた最高に粋。

 

最後はグラルファンの扉を開いたことで現世を離れることとなったトマノ老人の「自分が幸福であったことを覚えていて欲しい」という願いを受け取った暁が彼との別れを経る流れから、いつか来る人生の終わりの時に「自分は精一杯生きた」と思えるよう生き、大人になっていくと決意する暁の独白をEDと共に送る下りで締め。誰かの目にも留まらないような自分の平凡な人生を覚えていて欲しいと思えるほどに暁を大切な人と認めてくれたトマノ老人の気持ちや、自分の人生が良いものだったと確かめてこの世から去っていったトマノ老人の生き様を刻み、自分も全力で生きて最後にはそう思えるようになりたいと決意を新たにする暁の前進がまたグッときましたね...トマノ老人が消えるとともに彼の所有物だったレコードの音が止まる象徴的な演出が切なくも良い味わい

そんな本エピを締め括ったED「心の絆」の歌詞がいちいち本エピのストーリーにマッチするものだったのも物凄く良い味わいでした。「心の『扉』」のワードで今回の話のサブタイやキーワードと共通させてきてるとこや、「そう、明日はどこに在るんだろう?」「繰り返す毎日を数えている」を地区大会後の暁の心境に重ねてるとこも好きだけど、「君が教えてくれたね 生きてるっていうこと」の部分で暁と交流してた時のトマノ老人絡みのシーンのハイライトを入れてくるのがめちゃくちゃ涙腺に刺さって超良いんですよね...暁からしてもトマノ老人は物凄く大切な人になったんだなって...今見返しながら記事書いてるんだけどまたゆるゆるになってる

 

 

以上、コスモス第57話でした。暁とトマノ老人が互いに交流を経て自身の生きた時間に向き合っていく様を叙情的に描き上げ、かけがえのない一瞬を生きることの尊さを伝えたストーリーが心に沁みる素晴らしいエピソードでした。太田愛さんの単発回ならではな、リアルな質感の人間ドラマとほんのり漂うSFテイストのバランスが心地良く、コスモスという作品に程良いアクセントを加えた名エピだったなと。最高 こういうテイストの話は今のシリーズでも余裕あったらやって欲しいなぁ

 

というわけで今回はこの辺で 最後まで読んでいただきありがとうございます

次回もよろしくお願いします 気に入っていただけたら記事の拡散等していただけると喜びます!

ではまた