AnDrew’s小生意気レビュー記

作品の感想レビュー記事をメインに投稿しています。作品への造詣を深め楽しみつつ、それを他の方々とも共有できる場になれば。よろしくお願いします。

そこに“在った”もの

ウルトラマンティガ

第27話「オビコを見た!」

感想レビュー

 

 

闇夜のオビコ捜索で常にビックビクなシンジョウ隊員の一連の所作、漏れなく情けなくて凄く好き 背後の気配に対し(んもぉぉぉ絶対なんかいるよぉぉぉ)みたいな表情で縮み上がってからの目を瞑って振り向いて懐中電灯ブン回しのコンボが死ぬほどシャバいぜ() お化けが苦手なことはガギ回から連なる描写として一貫してるがやはりいつ見ても面白い。w 防衛チームの隊員の姿か?これが...(

そんな今回のシンジョウ隊員だけど、情けないとこだけでなくちゃんとドラマ的に良いシーンもあるのがニクいよなぁと 改めて二枚目でも三枚目でもオイシイキャラなのが実感できるわね

 

妖怪オビコを追い奔走するGUTS、その先に待つ真実、という内容な今回のエピソード。ウルトラシリーズ定番の妖怪変化を取り扱った不思議テイストの緩めなストーリーでありつつ、その実「“物”や“者”の在り様」とでもいうべき繊細な題材を「光」「闇」という本作を象徴する要素を添えることで叙情的に描いた話でもあり、何気にティガという作品においてかなり重要な立ち位置を成すエピソードなんじゃないかなと。太田愛さんによる繊細な人間ドラマのタッチとそれに並列するSF特撮ドラマとしての見応えの創出が良いバランスで発揮された名エピソードの一つですね

 

本エピソードの前半は、オビコの巻き起こす騒動とそれを捜索するGUTSのコミカルなドタバタの攻防といった内容になっており、のらりくらりと妖しげに闇を駆けるオビコの不可思議な立ち回りに科学最前線のGUTSがいつもの大真面目なSF的追走劇を繰り広げるという、オカルティックさとハードSFテイストの奇妙なコントラストが目を惹く形で展開。最初こそなんとなく緩めなテイストを含ませつつ奇怪さが滲む感じだったのが、だんだんオビコの方もちょけていく感じになってくのが面白いところ 土管や証明写真機やタンスに普通に入っておちょくってくるオビコのひょうきんな振る舞いを赤星昇一郎さんの好演が彩るのが良い そしてまたしてもしれっと描かれる防御力激低のGUTSメット(ギャグ的な描写なのは分かるけど防衛隊のヘルメットが小突かれた程度で「いてっ」ってなる代物なのダメだろ!!)

ここで個人的に地味に好きなのが、オビコに着いて回る影法師の存在感、というか表現のタッチ。ナイロン的な布を中から腹話術人形的に動かしてそれにゴリゴリにエフェクト掛けてるって感じの表現で、いかにもCG等の特撮技術発展過渡期って感じのほんのりチープさのある演出ではあるんだけど、このチープさが却って不可思議な存在の実在感と非実在感のバランスを上手いこと表現してる感じがあってなんか好きなんですよね。今のバキバキに発達したCGとかで影法師を表現するとなったらもっと縦横無尽に動いたりとか映像的に冴えたものになるんだろうけど、それだと逆に表現できないような、技術的な優劣に掛からない独自性に昇華されてる点が目を見張るというか、これはなかなか面白いなと思いますね ティガってCG辺りには技術的にまだ発展途上な部分も見られるんだけど、それでも当時の最新技術を可能な限りフルで活かして色んなものを表現しようとしたのが窺えるし、それをやったからこその時代的な云々に依らない表現における独立した強さみたいなのもしっかり出力できてるよなと改めて実感する

 

このオビコの神出鬼没さに、科学と頭脳の粋を尽くし全力で食らいついていくGUTSの活躍も見所。エボリュウの回からまたまた登場のモンスターキャッチャーの大活躍という要素回収のオイシさが目を惹き(改めてティガダイナ観てるとマジで定期的に大活躍しててスゲーなってなりますよねモンスターキャッチャー)、そこから繋がる形で「鍋の先が井戸なら、井戸の先は鍋」という逆転の推理が打たれる展開の鮮やかさは非常に爽快で良しでありましたし、その中でオビコの行動原理を推理する下りもクライマックスのドラマに大きく掛かるフックとして良いドラマ性に繋がっていたしと、今回GUTSの活躍がかなり良い味出してて良しでありましたね。大枠自体は「現れた怪獣に対峙、相手を知り、推察し、戦略を組み立て立ち向かう」というウルトラシリーズの基本ロジックに忠実な展開ではあるんだけど、それを摩訶不思議な能力で翻弄してくるゴリゴリのオカルト相手にも怯まず叩きつけ立ち向かっていくという構図は先にも述べたオカルトテイストとハードSFテイストのコントラストというところにおいて独特な味わいがあって面白かったし、何よりこの硬派なSF特撮というラインを一貫させる形で描かれるGUTSという防衛チームの格の高さの表現にもなってたのが良かったですね。やっぱ防衛チームは怪獣を単独で倒しウルトラマンをアシストするような鮮烈な活躍も素晴らしいけど、こういう細かなところで魅せる有能さや活躍の積み重ねも馬鹿にはできないね

 

また非常にさり気ない要素ではあるけれど、途中で登場した和尚さんもこのオカルトと科学のせめぎ合う本エピソードにおける良いアクセントとして印象深く語るに欠かせないところ。和尚さん、「オビコの言い伝えをGUTSに語り聞かせる人物」とだけ書き出すならば単にそういう役割として配置されただけのキャラなんだけど、去り際にちらと見せたたぬきの尻尾というワンポイントがあったことで、キャラクター的にも物語的にもグッと奥行きが出てるのが凄く面白いんですよね。描写を素直に受け取るならばオビコと同じ妖怪/怪異の類なわけだけど、そんな彼がオビコの住む地でオビコの言い伝えを細かに語り聞かせ、後述する終盤の流れにも掛かるオビコの気持ちを代弁するようなことを話す様は色々想像が膨らむよなぁと。この辺の詳細をぼかすことで、オビコ周りの背景に妖怪伝承的なところでの良い奥行きを与えてるのはちょっとしたアクセントとして粋でした 後の作品になるけど、コスモスのヤマワラワ回に登場する女将も似た要素で良いですよね

 

そんな感じでコミカルさも交えた軽快なドタバタが描かれた前半・中盤でしたが、終盤ではこれまで奇怪な行動を繰り返していたオビコの、 住処である村のかつての風景や自らの居場所であった深い夜の闇が人間の開発やそれにより生まれる人工の光に押しやられて無くなっていくことへの望郷の想いという心情が大きく描き出されるシリアスなタッチへと一転。人間の営みによって村が変わっていくことを嘆き、人々に妖怪オビコの噂と恐れを広めることで夜の世界から追い出し、深い夜の闇が戻ってきた・その闇の中に在ったかつての村の景色が戻ってきたとどんちゃん騒ぎよろしく喜ぶも、その実今見ている村が昔とは既に違ってしまっていることを理解してしまってもいるという、変わりゆくかつての故郷...引いては世界への郷愁に絡め取られるオビコの姿が物悲しく描かれる様が目を惹きました。闇に包まれた村を指さして「やぐらや蓮華の畑が“ある”」「村が戻ってきた」と高らかに言い放ってはしゃいでる時の、喜びに浸ってるとも空元気とも取れるどこかずっと震え気味な声色あの闇の中にあるのはもうかつての村じゃないと悲しげに突きつけるダイゴの言葉に振り返った時の泣きそうな顔と駄々を捏ねるような否定、もうここのオビコはとにかく色んな表情が痛々しくて辛い...(特に前者は、オビコの言葉に応じて今ある村の景色にかつての村の景色が幻となって浮かぶ様が無情さと儚さを却って後押ししていて映像的にも胸にくる) とにかく赤星さんの演技があまりにも良すぎるんですよねここ 先のコミカルな演技も良かったけど、複雑な感情周りを声と表情で繊細に描き上げる様が流石の一言であった

 

そうして場面は戻ってこない村への想いから暴走し始めたオビコとの戦いへ。木々や墓石といった“昔ながら”な感じのオブジェクトを前に置いた暗闇の中での戦闘から、ネオンに照らされた健康ランドオープンの看板が飾られたブロック塀と道路というオビコの住処を擦り減らしてゆく人間の営みの象徴を前に置いた戦闘へ、というミニチュア風景の移行の演出もオビコを取り巻く諸行無常を表現しているようであり、ティガを相手に駄々を捏ねる子供のような動きで喰らいつくオビコの戦い方と併せ切なかった。怪人体のオビコ、古い言い伝えに描かれる妖怪そのままのようなディテール多めの厳つめな表情に、ラーメン屋体に因んだナルトのマークの意匠を含んだ服を纏ったずんぐりの体型というジブリ映画の妖怪のような体型という、奇怪さとコミカルさが上手く織り交ぜられた宿那鬼とも違う妖怪イメージのまとめ上げとして凄く良いデザインなんだけど、今回の戦闘においては後者の低身長気味なずんぐり体型が「駄々を捏ねる子供」的な戦い方の解像度をより後押ししてるのがまた辛いんですよねぇ 闇の中でもティガのツートンが映える映像美美しいなとか、長回しの戦闘何気に凄いなとか、色々見所は多いがそれどころではなさすぎる

 

そして最後は、「町を壊してもダメなんだぞ...!もう村は!戻ってこないんだぞォーッ!!」というシンジョウ隊員の悲痛な叫びを纏った攻撃を棒立ちのまま背中越しに受けたオビコが、相対するティガの後ろにかつての村の風景を幻視、全てを心から理解し受け入れたようにティガを煽って繰り出させた攻撃を自ら受け止め眠るように散り行く形で決着。崩れ落ちた自身に駆け寄り抱き抱えたティガの腕の中で、静かに一つ頷いて消えていくオビコの心を思うと胸が詰まる、そんな切なすぎる決着であった。何にも代えられない自身の故郷の景色とその中にあった自身の住む世界─闇への、半ば執着のような郷愁を最後まで捨てられなかったオビコ、考えようも進める道ももっと良いものは沢山あったんだろうけど、そんな正論では括れないくらいに、自身の好きな場所・在るべき場所・在り方が大事だったのだろうと思うし、オビコに限らずともそういう人間は現実にも沢山いると思うので、そこにおいての共感にも心を大きく震わせられたなぁと

ここにおいて凄く重要なのがオビコに最後まで向き合ったダイゴの立ち回りで、ダイゴ自身オビコを邪険にしたりその心に不用意に踏み込んだりといったことは決してせず、オビコの心を知った上で「静かに暮らせるところを見つけてやる...きっと見つけるから」と呼びかけ手を差し伸べたり(「見つけてやる」から「きっと見つける」へ、という最大限オビコを慮り言葉を選んでる感じもミソ)、倒れたオビコにティガの姿で駆け寄り抱き抱えたりと、人間としてもウルトラマンとしても出来得る限り、「闇」に生きるオビコに「光」の者として歩み寄ってるんですよね。言葉を交わし触れ合える者同士としてやれることを精一杯にやろうとしてる、けれどオビコにとって大事なことはそうではなく、大切なものも在り方も譲れなかったが故にどちらかがどちらかを含み入れる形でないと決着できなかったという、この単純な相互理解だけでは語り切れない、各人それぞれの信条や在り様の違い故のままならない相容れなさとも言える、現実世界の人間同士、引いては種同士の間にも言える概念に、本作を象徴する「光」「闇」という相反する物同士を便宜的な象徴として用いることで切り込んだこの構図は、そもそもオビコの住む場所を我々人間が切り開き擦り減らすことなく、お互い相手に踏み込みすぎず侵し合わない立場でいればこんな悲劇は起き得なかったであろうという警鐘も込みでどこか残酷ではありつつも凄く文学的且つ哲学的で胸に沁みたところでありました。生きる者同士必ず分かり合えるという理想は決して間違っていないし素敵だと思うけど、それは必ずしも単純な理想や理屈だけで成り立つものではない─相手の譲れない在り方や大切なものの上では「分け合う」「分かり合う」の限りではないのだと、とても難しいことを言ってる気がしました。「光」「闇」という二要素を単なる属性としてだけでなく、人間の心の二面性や在り様といったところに象徴的に落とし込み扱うというティガの繊細な文学性の冴えが色濃く出た部分だなと  ティガに抱き抱えられたオビコが光となって消えてくシーンも、それを踏まえると色々考えさせられるよなぁ(光に抱かれながら苦しみから解放された「昇天」的な美しいシーンなのは違いないだろうけど、それはきっとこの作品を人間やウルトラマンといったものの「光」にフォーカスしながら観てる我々だからこその印象でもあるかもしれないというか、「闇」の中で穏やかに在った存在であるオビコを「光」に含め昇天させたことや、自身の在るべき場所を大切にしていたからこその彼の苦悩をそうして救ったことは、果たして絶対的に正しかったのか、みたいな。難しいね)

 

けれどそんなハードなメッセージ性の中でも、シンジョウ隊員やダイゴが仲間達と共に「自分のことを覚えていても欲しかったであろうオビコの心」に想いを馳せるシーンを入れることで、難しい話だけに依らないささやかな優しさを含ませ締めたのは凄く良かったところでした。オビコを追い詰めた大きな一因である開発が止まったりみたいなのは結局ないし、とどのつまり人間のエゴが終始付き纏ったままなラストなのも違いないけど、そんな中でもオビコを想い、「覚えておいてあげる」だけであろうとも今の自分達にできることをしてあげよう、これからもしていこう的なところに着地させたのは、凄く「人間」を描く本作らしい締めだったなと。「光」に押しやられて消えていったオビコが、最後の最後には自分を抱き看取ってくれたティガに一つ頷いたことは、決して「『光』と『闇』は相容れない」というだけで括れない気高く優しい心みたいなものを含んでたと思うし、こういうのを全部含めて、これを観た我々も色んなことを考え色んなものが良い方向を向くようできることをやるのがきっと正しいのだろうと、そう思います

 

 

以上、ティガ27話でした。立ち位置としてはあくまで縦にも絡まない単発のエピソードなのだけど、同時にこの作品を語る上で凄く重要なエピソードでもあるなと改めて。連番となる次回と併せ、本作のドラマや作品性をグッと深掘りする大きなポイントになってるなと思います。凄く良かった

 

というわけで今回はこの辺で。最後まで読んでいただきありがとうございます。 読んでて共感できたり楽しめたりしたところがあれば幸いです

気に入っていただけたら次回も読んでいただけるとありがたいです。感想をくださったり記事の拡散等をしていただけたりすると更に喜ぶぞ!!

ではまた