AnDrew’s小生意気レビュー記

作品の感想レビュー記事をメインに投稿しています。作品への造詣を深め楽しみつつ、それを他の方々とも共有できる場になれば。よろしくお願いします。

ウルトラマンブレーザー 第⚫︎×0話(1/2)

─PM18:55 都内某所

 

ネオンに照らされるビル群の中心で、3体の巨影が激しくぶつかり合っていた。

「ルロロロロロオォォォイ!!」

1体は赤と青の螺旋をその身に刻んだ銀色の巨人「ウルトラマンブレーザー」。4万t以上の重量でアスファルトの地面をめくり上げながら踏みしめ高く舞い上がったブレーザーはその勢いのままに鋭く突き出した右膝をその先に待ち構えるもう1体の巨影─「軟体怪獣レヴィーラⅡ」へと叩き込んだ。

「キュキュッ...キャキャキャキャキャキャ!!」

ブレーザーの膝蹴りをまともに見舞われたレヴィーラⅡはその凄まじい衝撃によろめき後ずさったが、次の瞬間にはまるで堪えていないとばかりに体勢を立て直し、不気味な鳴き声を上げながら表情の窺えない異形をぬらぬらと震わせながらブレーザーに向き直る。

しかしその背後に残るもう1体の巨影─特殊怪獣対応分遣隊SKaRDの戦闘ロボット「23式特殊戦術機甲獣アースガロン」が待ち構える。

そのアースガロンのコックピット内、副機長として乗り込んでいるSKaRD副隊長「ナグラ テルアキ」が声を上げ、その前の座席で機長としてアースガロンを駆る隊員「バンドウ ヤスノブ」がその声に応えた。

「今だ!撃てッ」

「ウィルコォ!液体窒素弾、発射ァ!!」

ヤスノブの掛け声と共に、アースガロンは構えた両腕に備えられた榴弾砲・アースガンから液体窒素を込めた弾丸を撃ち放った。

目標は眼前のレヴィーラⅡ。高速で放たれた弾丸はブレーザーとの戦闘に気を取られているレヴィーラⅡ目掛けて真っ直ぐに飛んでいく。

だが─

「キャキャッ...キャキャキャキャキャキャ!!」

それにすかさず反応したレヴィーラⅡは肉体を液状化させ、地面へ染み込んでいく形でそれを回避した。

「!!」

レヴィーラⅡの即時の回避行動に思わず面食らうアースガロン内部の二人とブレーザー。眼前から消えた標的が次はどこから姿を現すかと視線を巡らせる。

ブレーザー、後ろ!7時の方向!」

その時声が響き、ブレーザーはそれに瞬時に反応、半ば反射的に左方へと飛び退いた。

次の瞬間、声が指し示した方向に姿を現していたレヴィーラⅡが撃ち放った光線が、先程ブレーザーの立っていた場所に向かって空を切った。

「ウルルルルルルルオォ...!」

ブレーザーは地面を転がった勢いのままに反転し背後のレヴィーラⅡに向き直り、威嚇するかのように喉を鳴らした。

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その様子をSKaRD移動前哨・通称「モッピー」の車内から見ていた先の声の主─SKaRD隊員「アオベ エミ」と彼女に付き添う隊員「ミナミアンリ」は唇を噛む。

「エミさん、今回のレヴィーラ、相当すばしっこいですよ...」

「前のレヴィーラと私達の戦闘を踏まえてそういう性能になるよう改良が加えられた...?ったく、どこの誰だかは知らないけどレヴィーラの再利用なんて碌でもないことが行われたみたいですね」

今回SKaRDは突如として都内に再出現したレヴィーラに対し、レヴィーラが弱点とする液体窒素を込めた弾丸を搭載したアースガロンをヤスノブ・テルアキ搭乗の下出撃させ対応していた。隊長の「ヒルマゲント」が単身で陽動に向かい、エミとアンリはモッピーからサポートをする形で戦闘が繰り広げられる中、ウルトラマンブレーザーも参戦する形で更に戦闘は激化し、今に至っていた。

今回出現したレヴィーラⅡは以前出現したものに比べ敏捷で、アースガロンとブレーザーは連携しながら一進一退の攻防を繰り返していた。

そしてそれぞれの攻撃が回避されたことを受け、ブレーザー・アースガロンとレヴィーラⅡは再び隙を窺い合う膠着状態へと突入した...

 

 

『こちら、現場よりキヨシマダイラです!只今、出現した怪獣、レヴィーラを相手にウルトラマンと地球防衛隊のアースガロンは戦闘を繰り広げています!両者は現在、互いに攻撃を繰り返しては睨み合うという状況で...』

その頃、ブレーザー達が交錯する戦場より離れたところから某テレビ局の取材班がその戦闘の様子を生中継していた。現場に赴いた女性レポーター「キヨシマダイラ レイコ」が迫真のレポートによりその様子を伝える映像がネットへ、テレビへとリアルタイムで流されていく。

そして某テレビ局の副調整室ではその映像を受け取った多くの局員達が、画面に食い入ったり駆け回ったりをしながら見守っていた。

そんな局員達の一人の男「テラシマヅ サブロウタ」が、レイコがレポートする中継映像に興奮気味に張り付いていた。

「よぉ〜し良いぞレイコちゃん、撮れてる撮れてる...!おぉいマツ!映像と音の方大丈夫か!?ちゃんと流れてるだろうなぁ!」

「大丈夫ですよぉサブさん!行ってます...バッチリっす!」

サブロウタは駆け回る局員の一人の若者「ニホンマツ タクマ」に向け声を上げ、タクマもそれに力強く返す。

今流れているのは怪獣という脅威の動向をリアルタイムで逐一伝える、市井の人々にとっての生命線とも言える重要な報道映像。メディアとしてそれを伝える責任を双肩に担う者として、サブロウタは興奮からくる熱気を身体に帯びながら、流れてくる映像を見つめていた。

「頼むぜSKaRDとウルトラマン〜...負けんなよォ」

映像の先に立つレイコの更に奥、遠い向こうで睨み合うブレーザー・アースガロンとレヴィーラⅡの、いつ解けるとも分からない膠着した空気を肌で受け取り、サブロウタもその場にいるかのように緊張を強める。

「もう〜食い入りすぎっすよサブさん」

「ったり前だろマツぅ、大勢の人間の命や生活が掛かった戦いなんだよ。しっかりこれ観てる市民に届けてやろうぜ...SKaRDに、ウルトラマン!アイツらが勝つとこをさ。それが俺達、マスコミの仕事だッ」

「ほんとサブさん、SKaRDにもウルトラマンにもご執心ですよねぇ、熱い信頼寄せてるっていうか...分かりました!バッチリお届けしましょう!俺らで!」

サブロウタの一声にタクマも気合いを入れ直す。

だがその時、事を見守るサブロウタの緊張が、思いがけず一瞬緩んだ。

「...んん?」

画面に思わず食い入るサブロウタ。その先の中継映像で今なお睨み合う3体の巨影の足下が、うっすらと発光し始めていたのだ。

最初にそれに気付いたのはサブロウタだけだったが、やがて光が強まっていく様がモニターの映像でもはっきりと窺えるようになり、室内の局員達が一斉にそれに注目する。

「...なんだありゃア!?」

 



一方、現場に立つ3体の巨影達や闘士達も、自らの足下で起き始めた異変に困惑を強めていた。

『直下に強力な熱エネルギーの接近を確認。急激に拡大中』

「なんだこれは...このままだと大爆発を起こすぞ!?

アースガロンコックピット内にてAI対話システム「EGOISS」が放った冷静な呼びかけに、テルアキが緊張を強めた声色で反応する。

「マズいぞテルアキ!全速退避だ!!」

「う、ウィルコォ!!」

テルアキの焦りを帯びた声に瞬時に反応したヤスノブの操縦により、アースガロンは跳ねるようにしてその場から飛び退いた。

「ウルォ...!?ウラァァァァッ!!」

そしてブレーザーも、野生の勘とでも言うべきもので危険を察知すると、弾けるようにしてその場から退いた。

しかし、人の手により生み出された”養殖“の存在であったが故に、潜在的な野生の勘に乏しい、ないしはそれを信じきれなかったレヴィーラⅡだけは、僅かに反応が遅れてしまった。

そして次の瞬間─

 

彼らの立っていた場所から凄まじい爆音と共に極太の火柱が舞い上がった。

 

「ギキャキャ...!キャアアアアアアアア!!」

アースガロンとブレーザーはその爆風に煽られ吹き飛ばされながらもなんとか回避できたが、飛び退くのが遅れたレヴィーラⅡだけは、火柱の中で瞬く間に焼き尽くされ、一生命としての悲痛な断末魔を響かせながら灰も残さず消え去った。

「ルロ...!!?」

「なんやねんコレ...!?」

アースガロンの搭乗者達、ブレーザー、地上で事を見ていたエミとアンリはその様子に戦慄しながら、徐々に弱まっていく炎の柱をただじっと見つめていた。

すると、アンリがその炎を見つめながら声を上げた。

「...!?何かいます!炎の真ん中!人型の何かが...!」

「え...!?あ...!」

アンリの一声に促されたエミが目を凝らすと、彼女のいった通り、確かにいた。

弱まっていく炎の中心、そこにブレーザーよろしく屈強な肉体を持った巨人の影があった。

そして炎はますます弱まって、否、中心に立つ巨人に向け収束していく。

それと共に、巨人の姿が顕になる。

黒い筋繊維のような体表を覆うように、骨を思わせる有機質の白い装甲のようなものが全身を包み込む威容。

身体中には血管のように迸る赤黒くどんよりと光るライン。

他者を嘲笑うかの如き醜悪な笑みを象っているかのような頭部の右側からは、先程の炎を思わせる真っ赤な発光体が渦を巻き生えていた。

その姿はさながら─

ブレーザー...!?」

それを近くで見ていた者達が、誰ともなくそう呟いた。

そしてブレーザーもまた、その姿に緊張を強めていた。

「ウルオォ...!?」

炎を取り込み切った巨人はそんなブレーザーの方を向き、ニヤリと笑うかのようにその顔を見せた。

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「...キリィ!」

 

OP:Bokura no Spectra - YouTube

 

 

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ウルトラマンブレーザー

第⚫︎×0話

「悪魔の信託」

 

 

姿を現した巨人は、片膝立ちで未だ緊張するブレーザーを眼下に見下ろすようにしながら身体を向け、ゆっくりとブレーザーに近付いてゆく。

「ルロ...!?」

そして困惑するブレーザーの下へやって来ると、

「キリィ!!」

鋭い蹴りをブレーザー目掛けて繰り出した。

「ウルルアァッ!!」

半ば反射的に、咄嗟に腕を交差させて防御したブレーザーだったが、間近で放たれた蹴りの衝撃に吹き飛ばされ、地面を転がされる。

「キィリィ...!!キリ!キリィ!!」

しかし巨人は容赦なくブレーザーの方に向かうと、その身体を掴み強引に立ち上がらせると、拳法を思わせる俊敏な手つきで突きや蹴りを鋭く繰り出しブレーザーを攻撃する。

「ウロォ...!ルルォ、ウルルァ!!」

ブレーザーは理解も追いつかないままに繰り出される攻撃に苦しめられる。それでもなんとか持ち直すと、一歩引いて距離を取った後、攻勢へと打って出て、眼前の巨人目掛けて全力を込めたエルボーや膝蹴りを連続で繰り出す。

「キリッ!!キリ!!キリイィ!!」

だが巨人はブレーザーの攻撃の軌道を読むかの如く巧みに手を伸ばし弾いてゆく。そして繰り出されたブレーザーの膝蹴りを掴み受け止めて動きを封じると、ガラ空きの胸部へ横薙ぎの手刀を叩き込んだ。

「ウオォアァッ!!」

巨人の鋭い一撃にブレーザーが再び地面に叩きつけられる。

「...っ!!ブレーザー!!」

「何をしとんやお前っ...!!」

その様子にアースガロンコックピット内で驚愕の声を上げるテルアキ。そしてそれに続くようにヤスノブがアースガロンを立ち上がらせ、ブレーザーを援護しようと向かっていく。

「キリィッ!!」

だが巨人はそれに即座に反応、アースガロンの方へ右手をかざす。すると巨人の右手から炎が吹き出しアースガロンの足下に炸裂、アースガロンの動きを食い止めた。

更にそこから巻き上がった炎の渦が、アースガロンに全身に纏わり付き始める。そして瞬く間に渦巻く炎はアースガロンを縛る灼熱の檻となり、その動きを封じ込めた。

『表面温度上昇。システムの一部が半壊』

「クソっ、なんやコレ...!」

炎に巻かれるアースガロンを一瞥し、巨人はほくそ笑むように身体を一瞬震わせた。

「...!!ルロロロロオォォッ!!」

その隙にブレーザーはすぐさま立ち上がると、右の掌を前にかざしそこに極小の黒い穴を生み出すと、そこから赤と青の光の螺旋の槍「スパイラルバレード」を引き抜き、巨人の方を向き構えた。巨人を討つための、ブレーザーの必殺の一手である。

だが巨人はブレーザーの方へ向き直ると、焦る様子すら見せず、ゆらりとその身を不気味に揺らした。

「キ-リキリィ...!」

そして左の掌を前にかざすと、そこにドス黒い炎の渦を生み出し、見せつけるかのようにゆっくりと、そこから槍を引き抜いた。

ブレーザーの光の螺旋の槍に相対する、光を呑み込むような真っ黒な獄炎が渦を巻いた漆黒の槍「獄炎槍」。巨人は右手に構えた槍の切先を突き出しブレーザーに示す。

「ルルルォォ...ウルルロロァァァイ!!」

巨人の気迫に一瞬怯んだブレーザーだったが、すぐさまスパイラルバレードを手に駆け出す。

「キッ...キリィ!!」

巨人もそれとほぼ同時に、獄炎槍を手に駆け出す。そして2体の巨人は地面を蹴って飛び上がると、宙で構えた槍を勢いのままに相手へと突き出した。

「ルロロロロロオォォォイ!!」

「キリィィィ!!」

2体の巨人の雄叫びと共に、2本の槍が空気を巻き込みながらぶつかり合う。

光の槍と闇の槍の衝突。だが、決着は一瞬だった。

獄炎槍は衝突から間も無くして、スパイラルバレードの穂を削り取るようにして砕き、ブレーザー目掛けて一直線に突き出された。

「ホッ...!?ウルルルルオォォォォッ!!」

あまりのことに不意を突かれたブレーザーは危機を察知し咄嗟に身を逸らせたが、高速で迫る獄炎槍を回避し切るには至らず。ブレーザーの身体の上を闇と炎の渦が削るように突き進み、その痛みと熱がブレーザーの身を焦がした。

「ウオァァァァァァァ!!」

力無く落下するブレーザー。その巨体の落下でアスファルトの破片がめくれ舞い上がる。

「キ-リキリキリキリィ...!」

続けて着地した巨人は、悶えながら地面倒れるブレーザーを満足そうに見つめながら、右手に炎を揺らめかせながらじりじりと歩み寄っていく。

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しかしその時、巨人は自身の背後から向かってきていた蒼炎の存在に気付き、咄嗟に右腕を眼前にかざし防御した。

それはアースガロンの放った必殺の光線・アースファイア。ブレーザーと巨人の戦いの中でなんとか炎の檻の拘束を破ったアースガロンが、援護の攻撃を繰り出していたのである。

「キッ...キィリィ...」

それを見た巨人はアースファイアを受け止めた右腕を気怠げに払い、興醒めだと言わんばかりの露骨に機嫌の悪そうな態度を示した。

そして巨人は地面に倒れながら顔だけを上げるブレーザーを一瞥すると、全身を眩い炎に包み込ませると、次の瞬間にはその巨体をブレーザー達の前から消した。

「...!!目標ロスト!索敵範囲内にも痕跡無し、追跡不能...」

モッピー車内でモニターしていたアンリが驚愕を滲ませながら叫んだ。

そしてその場には、目の前で起きたあまりの出来事に呆然とするブレーザーとSKaRDが残された。

 

─PM19:00

 

突如現れた謎の巨人の独壇場。その異様な光景に困惑していた者は他にもいた。遠くからレポートしていたテレビ局の取材班、およびそれを局も調整室からモニターしていた局員達である。

『み...皆さん!ご覧になられていたでしょうか!?突如吹き上がった炎がレヴィーラを焼き尽くしてしまい、更にそこから現れた謎の巨人が...」

レイコの緊迫したレポートが流れてくる報道映像に、調整室の局員達は思わず食い入る。ある者は沈黙し、ある者は緊張から息を荒くしていた。

そしてそんな中の一人、サブロウタは謎の巨人の存在に興奮しながらも人一倍に注目していた。

「なんだァ、アイツは...いきなり出てきて街のど真ん中であんな...まるで見せつけるみたいに、怪獣やブレーザーを...」

巨人はただ周囲の存在に牙を剥いていたわけではないと、サブロウタはメディアの人間としてのある種の勘のようなもので感じ取っていた。何かを示すような、大きな目的を秘めているかのような、妙な異様さに思考が絡め取られていた。

「見せつける...そういうことなのか?自分が怪獣やブレーザー相手にああしてるトコ見せんのが、アイツの...」

サブロウタが更に巨人の正体へと迫る考えに耽っていく。

だがその思考は、次の瞬間打ち切られることになった。

「うわあぁぁぁ...!?なんだこれっ!!」

「!?」

サブロウタのすぐ後ろで叫ぶタクマの声に、サブロウタはバッと振り返った。

そこにはなんと、タクマが眩い炎に包まれ、困惑しながら戸惑う姿があった。

「マツ...!?お前それ、どうし...!?」

サブロウタはタクマのその様子に驚き反応したが、その驚愕は更に深められることとなった。

タクマだけではない。他の局員達も一様に炎に包まれ激しい困惑に踊らされていたのだ。

「何何何...何これェ!?」

「たっ...助けてーッ!!」

局員達の驚きと恐怖の声が室内のあちこちから響き渡る。その中央で、一人炎に包まれていないサブロウタだけが激しい困惑と共に周囲を見渡し続けている。

そして次の瞬間、彼らを包む炎の眩さが、一際強くなった。

「うっ...!!」

その明光に網膜を不意に刺されたサブロウタは反射的に目を固く瞑り、腕で顔を覆った。閉じた瞼越しにも伝わってくる明暗の感覚にその眩さを嫌でも感じさせられる。

「まっ、マツぅ!!どうしたぁ!!みんなも、一体...ッ!?」

やがて光が弱まっているのを感じ、タクマや局員達に呼びかけながら目を開いたサブロウタ。だが彼は更なる驚愕に襲われた。

先程まで局員でごった返していた室内には、サブロウタを除き誰一人として忽然といなくなっていたのである。

「え...な、なんだこりゃ...おぉいマツ!?みんな!!どうした!?どこだァッ!!」

サブロウタは困惑に思考と足を取られそうになりながら、必死に皆に呼びかける。誰の声も返ってこないであろうという漠然とした不安はあったが、呼びかけずにはいられなかった。

結果として、声は返ってきた。しかし─

「喚くな。余計な者を全て、外へと引き取らせただけだ」

「お前さえいれば良い。今の我々にとってはな」

サブロウタの背後から、聞き覚えのない声が響いた。男女の声。抑揚のない、生気すら乏しく感じるような声。

それにぞくりと背筋が震えたサブロウタが、バッと振り返る。

そこは先程まで局員達が睨めっこするように見つめていたモニター群の並んだ壁。その前に、茶色いローブを目深に被った男女がいた。その二人は、体を宙に浮かせ、浮遊しながら壁の前に佇んでいた。

「ッ...!?なんだよ、お前ら...!?」

サブロウタがビクリと跳ねた身体で後退りながら、目の前の男女に震える声で問いかける。

目の前の男女のうち、男の方はそれを受けて壁のモニター、否、その中に混じるカメラに向け、顔を浮遊する身体ごと向ける。そして女の方はローブから覗く口元をボソボソと動かしながら、サブロウタに返した。

「心配するな。全てはこれから説明してやる。全人類に向けた、我々キリエルの崇高な呼び掛けと兼ねてな」

「キリエル...?」

 

 

「なんすかコレっ!?なんでみんな急に局の外に...ていうか、サブさんは!?サブさんどこっすか!?」

その頃、局のビルの外では、タクマをはじめとした局員達が困惑に包まれていた。突如炎に包まれたかと思った次の瞬間、気付いたらビルの外に立っていたという異常でしかない状況に、皆が一様にパニックに陥るしかなかった。

 

一方、そこから少し離れた場所では、怪獣と巨人の出現に混乱しざわつく喧騒の中で、謎の巨人との戦いの後エミとアンリの乗るモッピーを集結地点としてSKaRDのメンバー達も集合していた。

そこには単身でレヴィーラⅡの陽動に向かっていた...ということに隊員達の前ではしておいてウルトラマンブレーザーとなって先程まで戦っていたSKaRD隊長のヒルマ ゲントの姿もあった。

ゲントはブレーザーとして謎の巨人との激しい巨人を繰り広げたこともあり体を痛めていたが、隊員達には戦闘の最中に巻き込まれたものとして通していた。

「それで、状況は?」

ゲントの一声に集結した隊員達が身を引き締めると、その中の一人であるエミがそれに応えた。

「あの後もモッピーから周辺の索敵を行いましたが、やはり巨人の消息は掴めませんでした。一瞬の内に消失...としか言いようがありませんね」

「あの巨人...一体何者だったのでしょうか。突如現れたかと思えば、ブレーザーに攻撃を...そもそも最初の攻撃と思しき炎の柱からして、レヴィーラだけでなく、まるで我々全員を巻き込もうとしていたかのようでしたが...」

巨人の威容をアースガロンのコックピットから間近にて観察していたテルアキが疑問を呈する。

「今はまだ何とも言えないな。だが、最初のコンタクトで半ば問答無用の攻撃...少なくとも穏やかな雰囲気は感じなかったな。警戒は必要だろう」

テルアキの言葉を受けてゲントが示した見解と指針に、隊員達は今一度身を引き締める。

だがその時、思いもよらぬことが彼らの前で巻き起こった。

テレビ局のビルの壁面に備え付けられた大型のモニターにノイズが走ったかと思うと、そこに先程の報道映像とはまるで違う映像が映し出されたのだ。

「!?」

「なんだ...!?」

驚愕するSKaRDの面々。画面に大きく映るのは、ローブを目深に被った不気味な男女。どこかの一室と思しき場所を背景にして、男女の後ろには中年の男がへたり込むように地面に座り込んでいた。

「あっ...サブさん!!あれサブさんですよ!後ろにいるの!!」

「てかあそこ...さっきまでいたウチの局の調整室じゃねぇか!!」

間近でモニターの映像を見ていた局員達も、突然の事態に驚愕する。

しかしそんな彼らの困惑に構うことなく、モニターの奥でローブの男が口を開いた。

『聞こえているか、人類よ。我々の声は今、多くの人間達に届いていることだろう...聞こえているか、人類よ』

男の発した声にモニターを前にして者達は一様にざわつきながらも思わず聞き入り、今度はそれを待っていたかのように僅かな間を置いて今度は女が話し始める。

『我々の名はキリエル。人類にあまねく救済と啓示をもたらす崇高なる種族。宙より来たる災厄が絶望を齎す世界に、安心を与えにやって来た』

大仰な言い回しで語り掛ける女に、先程の男の演説同様、局員達やSKaRDの面々、それに加えいつの間にか集っていた野次馬達も思わず見入る。

そんな彼らの視線をモニターの向こうで感じているのか、ローブの男女─キリエル人の男女は更に言葉を順々に繋いでいく。

『我々の力と威光を持ってすれば、人類は強い安心を得られる。お前達も確かに目にした筈だ、我々キリエルの高貴なる巨大な姿・キリエロイドを、その強大なる力を』

『お前達人類が守り手と仰ぐ地球防衛隊やウルトラマンとやら手をこまねいていた怪獣を一撃の下に葬り去り、ウルトラマンを蹴散らし木偶としてみせたあの大いなる力、それに縋るならばお前達は得られることは想像に難くないだろう?大いなる災厄の中でも揺らぐことのない平穏を、安心を、信仰を』

「キリエロイド...それがあの巨人の名前、そして奴らの力か」

男女の演説を耳にしていたゲントが、溢すようにふと口にした。

その最中にもキリエル人の男は尚も語る。

『たった一匹の獣の始末もままならぬ防衛隊とやらに、どこからやって来て何をしようとしているのかも何も語らないウルトラマンという異(い)なる者、そういった不安定で力及ばぬものが、いつ尽きるとも知れぬ災厄から何十億にも及ぶこの世界の人間達の守り手を騙りのさばる、そしてお前達もそんな不確かな者に頼らざるを得ない、そんな状況を異常だとは思わないか?』

キリエル人の男の壮大な、心の隙間の不安を縫うように潜り込んでくる言葉に、多くの者達が無意識に表情を強張らせ、ごくりと唾液を飲み込む。怪獣という脅威が地球の中に蔓延り、宇宙からも迫り来る世界。それに対し少なからず抱く人並みの不安を的確に突き、艶かしい手つきで優しく撫ぜるような言葉に、思わず聞き入り、共感し、惹きつけられていたのである。

だがそんな言葉に対し、叛意を示す者も少なからずいた。

「さっきから聞いていればなんなんですかアレ...画面の向こうから言いたいこと一方的に...!」

「そうですよ...!それに俺達はともかく、ブレーザーにまであんな悪く言うようなことばかり...!」

口を開いたのはアンリとヤスノブ。地球の守りのために戦う自分達地球防衛隊に加え、多くの怪獣の脅威に立ち向かい続けてきたブレーザーのことを貶めるような物言いに、心の底から湧き上がる激情を静かに滾らせていた。

それは周囲で聞き入っていた局員達や野次馬達にも少なからず当て嵌まっていたようで、モニターの奥に立つキリエル人の男女を訝しむような視線を向けたり、隣り合う者とひそひそと何かを話したりといった人間達が、ちらほらと見受けられていた。

しかし、男女はそれすらも見越していたかのようで、待っていたとばかりに語気をほんの僅かに高めて女が再び口を開く。

『だが分かっているぞ。お前達の中には、それをすぐさま良しとできない者が、少なからずいる筈だ。我々という安心と信仰の象徴すらも、得体の知れぬものとして恐れる者、叛意を示す者がな』

アンリとヤスノブ、そして他に同じ心持ちだった者達は、図星を突かれたように思わずバッとローブの女を見据える。そしてそれを見透かしたかのように絶妙なタイミングで今度は男が口を開いた。

『故に我々は、お前達の意思を束ね、人類が我々キリエルに如何に向き合うかを決める存在、謂わば信託を行う者を、人類の中から一人、我々の一存にて選び出した。それこそが...今我々の後ろにいるこの男だ』

『...ッ!?』

男の言葉に彼らの後ろに座り込む男─サブロウタが意表を突かれ驚愕する。

「えっ...サブさんが...!?」

「マジで...?」

「どういうこったよ、それ」

それは彼の同僚である局員達も同様で、最初にふっと口を開いたタクマをはじめ多くの者達が動揺を表す。

モニターの奥のサブロウタまでもが困惑し口も開けずにいる中、キリエル人の男女は更に言葉を繋ぐ。

『我々はこの男に、人類がキリエルの救済を受け入れるか否かを、委ねる。猶予は今よりおよそ24時間。明日(みょうにち)の午後7:00に、我々は再び人類に向け今のように神託の時間を設ける。その時、この男には答えを出してもらう』

『この男が救済を受け入れると答えたならば、我々キリエルは全人類に安心と信仰を与え、安寧を齎すと約束しよう。地球防衛隊にウルトラマン、そのような不確かなものに頼る必要はもう無くなる。“あれ”を潜り、キリエルの民がここへ一挙に至るからだ』

そう言ってキリエル人の女がゆっくりと、モニターの先を示すように、手を掲げ指を指した。

それに思わず反応し、指の指す先─空を目にした。

そして、驚愕にその表情を染め上げた。

「わああぁぁぁっ!!」

「えっ嘘、何!?」

上空にはいつの間にか巨大な暗雲が現れ、それを土台にするように、

 

見上げるほど巨大で、広大な「門」が姿を現していたのだ。

 

「嘘でしょ、一瞬であんな...!?」

「なんだアレは...!?」

エミとテルアキが驚愕の声を上げ、SKaRDの面々は街の上空に堂々と姿を見せた遺跡を思わせる荘厳な意匠の門を前にして一様に身を強張らせた。野次馬の人間達も同様で、腰を抜かしへたり込む者から、困惑しながらもスマホで動画や写真に収める者まで、多くの者が浮き足立った様相を呈していた。

それに構わずキリエル人の男が更に語る。

『しかしもし、この男が我々キリエルを拒むならば、それは人類全体の拒絶と受け取り、我々はあの門共々引き上げるものとする。人類に残されるのは、絶え間ない恐怖と不安、必ず来たる宙からの脅威に怯える世界というわけだ。

そして、我々の信託を担いながら我々を拒んだこの男には...

 

我々キリエルの怒りと失望の象徴として大いなる裁きを与え、それを全人類に見せつける』

 

「...ッ!!?」

背信には死を、だ』

演説を聞いていた者達が一様に、背筋にぞわりと迸るものを感じた。キリエル人の男があまりにも冷淡に言い放った言葉に、誰一人戦慄を隠せはしなかった。

それはその言葉をすぐ間近で聞いていたサブロウタも同様で、モニター越しの遠巻きにすら、じわじわと込み上げる不安と焦燥に染め上げられ、息を荒くする姿が見て取れた。

『ハァ...ハァ...ハッ...ハァッ...!!』

キリエルの男女は瞬く間に疲弊してゆくサブロウタに一瞥もせず、モニターを見つめ言葉を紡ぐ。

『我々が今告げる言葉はこれで全てだ。人類の選択を担い、全てを決めるのはこの男。お前達はただそれを待っているが良い』

『それと、念の為に忠告しておくが...猶予の間に門を攻撃しようが無駄なことだ。今の人類にあれは砕けん。そして我々とこの男がいるこの建物もまた同様。もしこの男の選択を阻もうと立ち入らんとする者がいれば...』

女がそう言って、スッと手を掲げたと同時─

 

激しい豪炎が、テレビ局のビルを取り巻くように立ち上った。

 

『この男も、立ち入ってきた不届き者も、ただでは済まん』

「......!!」

目の前で次々に繰り出される超常なる現象に、最早誰もが声を上げることすら叶わなくなっていた。

そしてそんな人類に再三示すように、キリエル人の男女は最後に告げた。

 

『『我々の名はキリエル。人類にあまねく救済と啓示をもたらす崇高なる種族』』

 

その言葉を最後に、モニターは再びノイズを走らせると、いつも通りの報道の画面を映し出した。

 

 

テレビ局ビルの副調整室の中、大勢の人間達へ向けた演説を終えたキリエル人の男女は、中継の断ち切られたカメラから視線を外すと、宙に浮いた身体ごとゆっくりと振り向きながらすうっと床へと音もなく足を付けると、地面に座り込むサブロウタの方へ歩み寄った。

招かれざる客たる超常の存在・キリエル人から「人類の選択」を思いがけず委ねられることとなったサブロウタは、未だ荒ぶる鼓動とそれに呼応する呼吸に身体を上下させており、その額にはうっすらとした汗を滲ませていた。

「ハァ......ハァ......ハァ......」

しかしそんな彼に構わず男女は語り掛ける。

「先に述べた通りだ。お前に与えられた猶予は24時間。その間に答えを出せ」

「地球防衛隊やウルトラマンといった不確かなものに依らない、キリエルの圧倒的な力の恩恵に人類が預かると宣言するか、それを拒み人類をキリエルの救済から遠ざけ恐怖し晒し続けることを選び、自らは背信の象徴として焼かれるか、二つに一つだ」

サブロウタの強張る心とは裏腹に、ただそれだけだと淡々と男女は告げる。静かな言葉でサブロウタの鼓膜を震わせ、その心をざわつかせる。うっすらと覆い被さってくる圧が、身体を地に沈ませてきそうな感覚にサブロウタは気が滅入る。

それでも幾分か落ち着いたらしく、サブロウタがようやく口を開く。

「...なんで俺だ?」

「?」

「なんで俺なんだ。こう言っちゃなんだが、俺は幾つもあるテレビ局の一つで、報道やってるテレビ屋の一人に過ぎない男だぜ...なんでそんなヤツにこんな大事な選択委ねた?こういうの普通、総理とか大臣とか...この国に限らないなら大統領とか、もっとお偉いさんに委ねるだろ。違うか?」

顔を上げキリエル人の男女を見据えるサブロウタ。その視線を何の感慨も無さげに受け取り、男女は口を開き答える。

「我々としては誰でも良いのだ。一人の人間が人類全体の責任を背負い、それに相応しい答えを出す。その過程を経てこそ我々キリエルへの信仰は完成する」

「強いて言えば、防衛隊にウルトラマン、奴らの姿を間近に見る人間にこそ委ねることに意味を見出したとでも言っておく」

「...何?」

「人間達の上に立つ人間は、その地位故の安全に浸かり、それを脅かされることに対する畏れを多かれ少なかれ含む。もしそんな人間に我々の示した選択を委ねたならば、返ってくるのは十中八九『保身のための安全』を求めた答えだ。そして下の人間達も漠然をそれを感じる。それではキリエルの信仰を示す上での意味が弱まるのだ」

「だからこそ、大いなる脅威に晒される恐怖、それを取り除き切れない不確かな救済への不安に晒される人間達が決断してこそ、意味があると考えた。特にお前は、『マスコミ』とやらに通じ、その中でも防衛隊やウルトラマンに深い関心を寄せていたのが見て取れた。だからこそ我々は選んだ、お前を信託に相応しい者として」

「...なるほどねぇ」

全てを聞き終わり、サブロウタは一度がくりと脱力したように深くへたり込んだ。

理解もできた。納得もできた。だが、その上でもなお決断しろというキリエル人の言葉は重かった。その重さがそのまま全身にのしかかって、押し潰してきているかのようであった。

そんなサブロウタの心中を見透かしたように、男女は告げる。

「先にも述べた通り猶予は24時間。長くもあり短い猶予だが、その間にゆっくりと考えるが良い。その間我々はお前に干渉しない。自らの選択の責任と、言うべき言葉を自らの中で反芻し固めておくことだ」

「この建物で括られる場所であれば自由に行き来するが良い。但しこれも先に述べたが、外へ逃げようなどとは思うな。その時お前は、この世から消え失せる。我々はまた新しい者を信託に足る者として選ぶだけだからな」

それだけ言うと男女はすうっと、虚空に溶けるようにして消えた。目の前で信じられない光景を幾度も見せつけられて、最早サブロウタは驚きもしなかった。

ただのしかかる重圧に心と身体を丸ごと委ねたようにがっくりと一度項垂れると、そのまま背中から地面に倒れ込んだ。

「......」

ほのかにオレンジ色に染まる照明がうっすらと照らしてくる天井を見ながら、サブロウタは縫い付けられたようにそのまま動きを止めた。

 

 

─翌日 AM8:00(選択の時まであと11時間)

 

地球防衛隊日本支部・教江野基地。SKaRDの指揮所も存在するこの基地の一角に敷設されたアースガロンの格納庫。

先のキリエロイドとの戦いで機能の幾つかを損傷したアースガロンの整備に大勢の隊員が駆け回る中、SKaRDのメカニックを務めるヤスノブもパッドを手に険しい顔でアースガロンの状態をチェックしていた。

「ヤスノブさん、あまり詰めすぎると倒れますよ」

ヤスノブの後ろから女性の声がする。ヤスノブが振り向くと、エミが缶コーヒーを両手に微笑んで立っており、その一方を手渡してきた。

「あ、エミさん...ありがとうございます。いや、アーくんけっこう手痛くやられてしもたんで、はよ直してやらないとって。今は一時も油断できませんし」

ヤスノブの言葉にエミも表情をスッと神妙なものに切り替え、話し始める。

「ですね。現在テレビ屋を中心とした広範囲の地域は完全に封鎖され、上空の門共々監視が固定。アンリさんとテルアキさんも現場に行ってます。地球防衛隊はキリエルに対する対応について上の方がかなり揉めてるみたいで、だいぶ悶々としていますね」

「門やビルに動きは...?」

「門には地対空ミサイルでの牽制攻撃が行われたようですが、まるでビクともせず現状維持が決定。ビルの方はキリエルが見せたあの現象がある以上、人質同然の人間もいる状態で手を出すわけにはいかず監視止まり...向こうからの動きは無いですが、こちらからも何もできないといった感じですね」

エミの報告にヤスノブは表情をより険しくする。

「なんなんですかね、あのキリエルってヤツら...地球防衛隊やウルトラマンを一方的に貶めるようなこと言った上に、何の関係も無い市民を巻き込んで救済するとかしないとかの選択を委ねるとか...あんなのまるで...」

「テイの良い脅迫、ですよね。分かります。地球防衛隊の人間達も、市民の人間達も、そう感じてる人は少なくないと思いますよ。ただ...」

「ただ?」

「...その上でも、袋小路に置かれて、一方的に委ねられて、そんな状況で自分の命まで危ういとなれば、どう思っているかに関係なく、選んでしまうことはあるかと」

隣に立ったエミの横顔から僅かに滲む苦渋に、ヤスノブも思わずやるせなさそうにしてしまう。

「あのビルに閉じ込められた男性...ですよね。11時間後...なんて言うんですかね、彼」

「分かりません。でもこんな状況です。どう選んだとしても我々にも、誰にも責めることはできません」

「......」

エミの言葉にヤスノブも押し黙り、沈黙が広がる。

しかしその沈黙を、エミが改めて破る。

「...でも、後にも先にも我々のやることは変わりませんよ。キリエルがもし何かをしでかそうと言うなら...毅然と立ち向かうまでです。私達の使命は、そういうものですから」

「...ですね!ほな、まずはアーくんをはよ直してあげないとですね」

エミの決意表明にヤスノブも同調し、二人は表情の緊張を緩め互いに微笑み合った。

「...そういえばエミさん、ゲント隊長は?なんか見かけませんけど」

「レヴィーラの陽動の時、無茶したみたいでけっこう体痛めてたらしく...医務室で横になって休まされてます。まったく、前からではありましたけどやっぱり危なかっしいというかなんというか...」

「ですねぇ...自分が言えたことじゃないですけど、色々背負ってそのうち倒れるんじゃないかとか心配になりますね...」

エミとアンリ、お互いうんうんといった面持ちで顔を合わせ頷き合った。

 

 

教江野基地医務室。

ゲントはそこのベッドの一つで横になり、痛めた体を休めていた。現場に張り付くと言って聞かなかったのをテルアキを筆頭とした仲間達に咎められた結果である。アースガロンの操縦もローテ通りでなく続けて副機長としてテルアキが搭乗することとなり、せめて時間ギリギリまではゆっくりしていろと念を押されたのだ。

行きたくてうずうずする体がなんともむず痒く、ゲントは自分一人の医務室の中起き上がったりまたベッドに寝転んだりを繰り返していた。

そんな時、制服のズボンのポケットの中がほのかに熱を帯びる感覚を覚え、そこに手を突っ込むと奥に潜んでいた熱源を引っ張り出した。

ゲントをウルトラマンブレーザーへと化身させる神秘のアイテムにして、ゲントに宿るブレーザーの意思そのものが具現化したもの「ブレーザーストーン」である。

ゲントがそれを手に取ると、その前面に刻まれたブレーザーの横顔のレリーフが、うっすらと光を発した。

「分かるよ、不安なんだよな。お前も」

ゲントはそれにふっと語り掛ける。脳裏によぎるのはキリエル人の男女の演説の中の言葉。

 

どこからやって来て何をしようとしているのかも何も語らないウルトラマンという異(い)なる者、そういった不安定で力及ばぬものが、いつ尽きるとも知れぬ災厄から何十億にも及ぶこの世界の人間達の守り手を騙りのさばる、そしてお前達もそんな不確かな者に頼らざるを得ない、そんな状況を異常だとは思わないか?

 

続けて浮かぶのは、以前イルーゴ出現の際の出動を「ハルノ レツ」参謀長に咎められた時の言葉。

 

お前達があたふたしている間に、何を考えているのか分からない宇宙人が現れ怪獣を倒し去っていく、その繰り返しだ。こんな事では、SKaRDの存在意義が疑われても仕方がない、違うか!?

 

申し合わせたように本質の重なったその二つの言葉が、ゲントの心に重しとなって沈んできていた。

自分達をはじめとした地球防衛隊の力不足。ウルトラマンブレーザーという得体の知れない存在が降り立っている現状。考えもしなかったわけではなかったが、それは平和に生きる多くの市井の人々にとっても同じかもしれないのだと、その事実を改めて突き付けられたことは、ブレーザーとして、SKaRDの隊長として戦うゲントにとって、そしてブレーザー本人にとっても決して小さくないプレッシャーであった。

「...キリエルの選択を委ねられたあの男性、彼はどう思っているんだろうか」

ゲントがぽろっと呟く。

ゲントの言う男性─サブロウタがもし同じように地球防衛隊やブレーザーへの不信を抱いていて、もっと大きく確かな安心を得たいと望んでいたとしたら、その時は─

「...今はやめよう。こんなことを考えるのは、俺達のやるべきことは何にせよ同じだ。そうだろう?」

手のひらの上のブレーザーストーンに微笑み語り掛けるゲント。ブレーザーストーンはそれに応えるように、再びうっすらと、一度だけ輝いた。

 

 

─To be continued...

 

後編→ウルトラマンブレーザー 第⚫︎×0話(2/2) - AnDrew’s小生意気レビュー記