前編→ウルトラマンブレーザー 第⚫︎×0話(1/2) - AnDrew’s小生意気レビュー記
*
─PM15:00(選択の時まであと4時間)
テレビ局ビルを中心とした広大な封鎖区域の縁。地球防衛隊の隊員達が非常線を張り監視を行い、それを大勢の野次馬が遠巻きに眺めていた。
そんな野次馬の更に後ろの方で、キリエルにより局のビルを追い出されたニホンマツ タクマと、彼に寄り添うキヨシマダイラ レイコの姿があった。
外で中継を行なっていたレイコを含む取材班の者達はキリエル人の神託後、タクマ達局員達と合流し状況を整理した後、複数の班に改めて分かれて遠くから事を見守り、何かあればすぐさま中継・報道できるように動いていた。
タクマとレイコはその班の一つの一員として動いており、タクマはカメラを手にレポーターのレイコと共に、遠巻きに見える局のビルを見ていた。
「レイコさん...大丈夫なんすかね、サブさん」
タクマが隣から顔を向けず放った言葉に、レイコは思わず反応する。
「え?あぁ...大丈夫よマッちゃん。あのキリエルとかいうの、サブさんにどうするか決めろーって言ってるわけだし、少なくとも、今夜の19:00までは何もしないんじゃ...」
「うーん...それはなんとなく分かるんですけどね...でもやっぱ異常ですよ、サブさん一人に人類がどうとかの決断丸投げするなんて...そんなんでずっとあそこに閉じ込められて身動き取れないとか...サブさん、体はともかく頭が参っちゃってないかって」
「あぁ...それは確かに、ちょっと心配かも...」
タクマもレイコも、サブロウタのことを案じながらも遠くから見ていることしかできない状況に、歯痒さが混じった不安感を強く抱いており、それでいて動きのない現場にそわそわとしていることしかできずにいた。
歯痒さが更に歯痒さを後押しするような心境に悶々とする二人。だがそんな時、それを断ち切るように軽快な音楽が突然鳴り始め、二人はびくりと身を震わせた。
音楽の出所は、タクマのパーカーのポケットに入っていたスマホ。タクマがすぐさまそれを取り出し画面を見つめる。
液晶には「サブさん」の文字。
レイコ共々驚きを表情に表したタクマは、レイコにも聞こえるようスピーカーをオンにすると通話の表示をタップした。
「も、もしもし!?サブさん?サブさんっすか!?」
焦り早口で問い掛けるタクマ。それに返事を返したのは、彼らにとって聞き馴染みのある中年男性の声だった。
「うるせぇよぉマツぅ。心配しなくても生きてるよ、ホレ、ピンピンしてら俺」
電話口から聞こえてくるサブロウタの飄々とした声に、タクマとレイコは顔を見合わせて安心する。
「サブさん!心配したんですからね俺達!電話全然繋がらないし..,」
「ホントですよ...とりあえず、無事で良かったです」
「ハハ、ワリィな。流石に色々あって電話出る余裕さっきまで無かったんだよ。それに無事っつってもなぁ、あと4時間で人類背負わされるんだぜ俺。気が気じゃねぇよずっと」
二人に軽い感じで返すサブロウタの声。その声がいつもに比べて僅かばかり憔悴しているように感じられ、一瞬押し黙る二人。
しかしそれも一瞬で、レイコが再び口を開く。
「今、そっちどうなってるんですか?こっちからじゃ何も...」
「どうたってなぁ、別に普通だよ。俺以外全員出払ってるし、キリエルとかいう奴らも時間まで出てこないみたいだから静かなもんだけどな」
気楽そうに振る舞ってるような向こうから聞こえる声色に、心配になったタクマが問い掛ける。ある種の、核心とも言うべき問い。
「...サブさん、どうされるんですか?選択」
「んン?」
「人類はキリエルになんとかっていうあの...だって、もし断ったらサブさんは...」
タクマの言葉に、隣にいたレイコも、問い掛けたタクマ自身も、思わず押し黙る。それを察してか、電話の向こうのサブロウタの声も一瞬途切れる。
しかしその空気を感じたように、次の瞬間にサブロウタは言葉を返した。
「...おいマツ、レイコちゃん」
「...はい?」
それはどこか、重苦しさを感じる声。それにタクマは僅かに緊張する。
「俺は俺だよ。自分が信じたもの信じて、言うべきこと言うだけだ」
「え...?」
「絶対悪いようにはしねェよ。だからさ、お前らも俺のこと信じて、何が起こっても絶対このことは、しっかりカメラに収めといてくれ。テレビ屋テラシマヅ サブロウタの一世一代の演説だ。頼むぜ」
「ちょっ、サブさ...!」
やけに落ち着いた、神妙なサブロウタの言葉。それに何かを感じて叫ぼうとしたタクマだったが、それが言い終わられるよりも先に、電話はぷつりと切れた。
「......」
再び押し黙るタクマとレイコ。両者とも、サブロウタが何を考え、何をしようとしているか、なんとなくだが分かった気がした。
それに対し、どう言うべきかも分からず、二人は揃って沈黙してしまう。
だがそんな中で、タクマが先に口を開いた。
「...撮りましょう、レイコさん」
「え?」
そう言ったタクマの方を見るレイコ。彼女が見たタクマの表情には、どこか決意を強く固めたような勇ましさがあった。
「サブさんは自分を信じてしっかり撮れって言ったんスよ。だったら撮りましょう。俺もサブさんの下で一緒に働く、テレビ屋の端くれです...だからサブさんの考えてること、なんとなく分かります。だからこそ...撮るべきッス!!」
「マッちゃん...」
タクマの言葉に、レイコは思わず気圧された。だが、その想いは、決意は、確かに彼女にも伝わった。
レイコも強く、表情を引き締める。
「...分かった、やろう。サブさんが言うこと、やろうとしてること、ちゃんと収めて、伝えよう!私達の声で、カメラで...!
*
その頃、封鎖区域内部のキリエロイドが出現した市街地、レヴィーラⅡを焼き尽くした炎の柱が上った地点から程近い場所にナグラ テルアキは立っていた。
テルアキはパッドを手に、時折タップやスワイプを行いながら画面を見つめている。
と、その後ろから現場周辺の調査を一通り終えたアンリがやって来た。
「テルアキさん!周辺を一通り調査してきました」
「うん、ご苦労様」
「?何やってるんですか?それ」
アンリの問いに、テルアキはパッドを手に近寄ってきたアンリに語る。
「この地点の地下には広大な洪水防止用の地下空洞がモグラの巣のように通っているらしくてな、そこにカメラを備えたドローンを侵入させ、このパッドで操作し内部の様子をモニターしている」
「へぇ〜...でもなんで地下を?」
「キリエロイドが出現した際に吹き上げた炎の柱、そして演説の時見せつけるようにビルを包んだ炎、キリエルがさながら魔法のように繰り出していた炎は、いずれも地面から吹き出していたものだった...加えて、キリエロイドが姿を消した際も、思えばヤツを包み込んだ炎は、地面へと吸い込まれていったようだった...!つまり、地下に秘密があるんじゃないかと考えて、こうして調査を行っている」
テルアキの徐々に語気を強めていくような説明に、アンリはやや圧倒されながらもうんうんと首を縦に振り納得する。
「それで、何か分かったんですか?」
「今炎の柱が上った地点にドローンが到達したところだ。これから観察を通じて詳細を分析していく...」
テルアキは再び視線を手元のパッドの画面に集中させると、指先でドローンを操作するためのタップやスワイプを繰り返す。
「ん...やはり炎の柱は直下の空間から突き上げたものだったようだな。空洞の外壁に強力な熱による溶解と見られる痕跡が、幾つか確認できる」
テルアキが見つめる画面には、限界以上の高熱に晒されたと見えるコンクリート壁のひび割れが随所に広がる外壁が映っていた。隣にいたアンリも覗き込むようにそれを見つめる。
「あ、こういうのとかそれなんですねぇ...ホントだ、向こうの方にもちらほらと」
画面に映る外壁の様子を見ていたアンリがふっと言葉を漏らす。それを聞いたテルアキもドローンを操作し先の空間等をチェックしていく。
と、その操作の手がふと止まった。
「...テルアキさん?」
アンリが困惑した声を上げるが、テルアキは没入したように画面に食い入っている。
「炎の直下からかなり離れてもこれだけの痕跡が...だがさっきドローンが通ってきた通路にはこんな......そうか!!」
テルアキが画面からバッと、突然に顔を上げた。
「アンリ、指揮所へ直ちに帰還するぞ!ヤスノブ達の調整が完了次第、アースガロンで出撃する!」
「う、ウィルコォ!」
テルアキの勢いにまたしても押されながらも、アンリはその指示に従い、その場を急ぎ足で後にする彼に追従していく。
とその時、テルアキの無線に通信が入る。テルアキは移動しながらもそれに応じる。
「こちらSKaRD CP...はい、はい、そうです」
テルアキは通信の先の声を聞き半ば反射的に身を正す。どうやら上層部の人間からの通信のようであった。
「はい、ええ...え?上層部の、キリエルに対する意思が?」
*
─PM:18:00(選択の時まであと1時間)
テレビ局ビル、その上階に位置する休憩所を兼ねる屋外エリアに、サブロウタは立っていた。
夕暮れ時、夕陽の朱にうっすらと照らされた街並みが美しく、サブロウタのお気に入りの場所であった。
しかし今、そこから見える景色はサブロウタが見知ったものとは大きく違っていた。キリエル人が呼び出した「門」とそれを支える暗雲が、遥か先の上空に鎮座しているからである。
「......」
選択まであと1時間。サブロウタは表面上平静でいたが、内心は不安から来る鼓動の高まりを抑えられなかった。
しかしサブロウタの心は揺るがない。自身がやると決めたことを、信じると決めたものを貫くと、そこから見える景色を目に改めて思う。
そしてそれを今一度固めるために、深く深く、想いを巡らす。かつてタクマやレイコと集まって行った番組制作の話し合いに息詰まり、二人をそこへ連れて行った時に二人に向け語った自身の言葉を思い出す。
この街にはさぁ、当たり前だけど、大勢の人達が住んでて...それぞれに暮らしがある!
俺はねぇ、上手くいかないことがあると、この場所に来るんだよ。ここにいる人達に真実を伝えるのが、俺の仕事だろ?だからこの業界を選んだんだろ!ってね
初心って言うのかなぁ?そういうの、忘れたくなくてさ
多くの人々が生きる足元の街。
その真上に得体の知れない門が鎮座し、人々はそこでの生活を、営みを追われている。
門を置いた存在は自身に選択をしろと迫る。
─矜持。
自身の、マスコミに携わる者としての矜持。
「...よし、行くかぁ」
サブロウタの目に、迷いは無かった。
*
CM:【ウルトラマンブレーザー】DXアースガロンCM - YouTube
【最新予告篇】『ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』2024年2月23日(金・祝)全国ロードショー! - YouTube
*
─PM18:55(選択の時まであと5分)
キリエル人の神託から遂に24時間が経過。既に陽も落ち夜の帳が下りた街の中、彼らの宣言した「選択の時」が訪れようとしていた。
封鎖区域の中からは地球防衛隊により局のビルや上空の門に照明が眩く当てられ、その外側の最も大きなモニターが設置された建物の前には、事の顛末を見届けようとする興味本位の野次馬や報道各社のマスコミでごった返していた。
その中には、カメラを構えるタクマと、その前に立つレイコもいた。
「皆さん!間キリエルと名乗る存在達が提示した『選択』が為される時間が、刻一刻と近付こうとしています!封鎖区域の外の建物に設置されたモニターの前には多くの人が集まっています!キリエルの中継が始まれば全てのチャンネルがジャックされる可能性があることから、我々はモニター越しに映し出されるであろうその様子や、封鎖区域内の局のビルで何が起きるのかを、このカメラで直接逃すことなく...」
真に迫る語気と共にレポートするレイコの前で、タクマはカメラを支えながら、レイコの背後の建物のモニターや、その更に後ろの遠方に立つ局のビル─サブロウタがこれから選択を行う場を見据えていた。
「サブさん...任せてください...俺達に!」
*
─PM18:57(選択の時まであと3分)
一方、封鎖区域内では、地球防衛隊隊員達が息つく暇もなく事態に備え東奔西走中。ゲント、エミ、ヤスノブもモッピーに乗り込みモニターをしながら事の推移を見守っていた。
「そろそろだな...よし、テルアキとアンリも時が来ればアースガロンで即座に駆け付ける。俺とエミは作戦区域へ散開、ヤスノブはモッピーに待機、何が起きても大丈夫なよう備えるぞ。良いな?」
「「ウィルコォ」」
ゲントの一声に、エミもヤスノブも身を引き締める。そして各々顔を見合わせ頷き合うと、ゲントとエミはSKaRDの主装備たるアサルトライフル「23式電磁小銃」を携え、ヤスノブに見送られながら作戦エリア内へと分かれて駆けていった。
ゲントは一歩一歩と、地面を踏み締め進む。
そんな中で彼は、ポケットの中のブレーザーストーンが仄かな熱を帯びるのを感じる。
「......」
それにポケットの上からそっと手のひらで握り締めて応えたゲントは、真っ直ぐにキッと前を見据えながら、夜の闇の中を進んでいった。
*
─PM19:00(選択の時)
時は来た。
誰もがそう思ったと同時、先日と同様モニターに激しいノイズが迸ると、その画面の間近にキリエル人の男女が張り付いた局の一室の映像が映し出された。
そしてその背後には、神妙な面持ちで立つサブロウタの姿。
その様にモニターの前で控えていた野次馬やタクマ達マスコミは騒然とし、各自のスマホやパッドでテレビのチャンネルを映し待ち構えていた防衛隊の隊員達はにわかに緊張を強めた。
そんな彼らの様子をモニター越しに感じてか否か、キリエル人の男女は相変わらずといった様子で話し始めた。
『人類よ、選択の時は来た』
『これにより決まる。人類がキリエルの救済を受けるか否か、来たる脅威にも揺るがない絶対的な安心を得るか否かが』
淡々と、だが僅かに高揚しているかのようにも思えるその語りに、多くの人間達が自ずと食い入る。
『余計な前置きはここまでにしよう。さぁキリエルの信託を託されし者よ、答えを聞こう』
『人類はキリエルを受け入れるか、否か』
『......』
振り返って問い掛ける男女の視線を一身に受け、静かにサブロウタは佇む。
震えも何も無い、覚悟を決めた出立ち。
そして暫し、ほんの暫しの間を置いて、サブロウタは口を開いた。
『...怪獣に苦戦する地球防衛隊や得体の知れないウルトラマンなんかじゃ不確かで安心なんか無い。だからでっけぇ力を持った自分達が人類を守ってやる...あんたらの言い分はそうだったな?』
サブロウタの呟くような問い掛けに、キリエル人の男女の視線が僅かに訝しむような色を帯びる。
事を見守る人間達も、その様子に静かなざわつき始める。
『...今更何を聞いている?』
『その通りだ。我々キリエルの齎す安寧を受け入れるか否か、人類の選択をお前が─
『悪いけどさァ〜...お断りするよ。それ』
急かすようなキリエル人の言葉にわざわざ被せるようにして、僅かにニヤリと笑いながらサブロウタが言い放ったシンプルな答えに、野次馬も、マスコミも、防衛隊隊員達も、それを聞いていた者達は一様に、思わず静止した。
「...!!」
その内の一人、ゲントは何ともなくさらりと告げられた言葉に面食らい、身を硬直させた。
「やっぱり...そうなんスね」
そのまた一人、タクマは分かっていたとばかりにうっすらと、誇らしげなようにも寂しげなようにも見える笑みを浮かべた。
ほんの一瞬、まるで時が止まったと錯覚するような一瞬の中で、多くの人間がそれぞれその言葉へ静かに引き込まれていた。
それはモニターの向こうで直接聞いていたキリエル人の男女も同様。そしてその後、口元と目元をほんの僅かにピクリと引き攣らせながら、再びサブロウタに問う。
『...今なんと言った?』
それを受け、サブロウタははっと言わんばかりに鼻で笑い、わざとらしく頭をぽりぽりと掻きながら答える。
『そりゃねぇだろォ〜...せっかく勇気出して言ったってのに、もう一回は恥ずかしいじゃねぇかよ?
断る、って、そう言ったんだよ』
『......何?』
キリエル人の男女の表情に、仄暗い影が被る。
だがサブロウタはそれを分かった上で構わず続ける。
『確かにな、客観的に見て防衛隊は頼りないかもしんないよ。怪獣を刺激して危ない状況引き起こしそうになったり、退治に手間取って被害広げてしまったり...ウルトラマンもさ、側から見りゃどっから来たかも分かんない宇宙人だよ。そいでもって、思いっきり吠えてて何喋ってるか全然分からない...身も蓋も無い言い方すれば、ちょっと変なヤツではある。
でもさ、そんな彼らがさ、今まで戦って、守ってくれてたんだよ。それを見ていて、ちゃんと知ってる人間達だって、沢山いる。
その「真実」にそっぽ向いてさ、今更もう助けは必要ありませんなんて、そんな真似、人間としてできないね』
サブロウタの飄々とした声色ながらも確かな想いを込めた言葉、力強い視線は、目の前のキリエル人の男女を刺し貫いた。
それに思わず気圧されそうになるキリエル人の男女。しかしそれを振り切らんとばかりに、すぐさま口を開く。
『...愚かな!人類に安心を齎さない不確かな救済がのさばるのを認めるのか!?』
『不合理だ!そのようなこと...!!』
見るからに語気の強まった男女の詰問に、サブロウタは待ってましたとばかりに口角を上げた。
『おいおいお二人さん、急にさっきまでの余裕崩して声荒げて...どうしたんだい?大体さ、俺に全部委ねるって話じゃなかったのかよ?それなのにいざ言ったら愚かって、勝手すぎないかよ、言い分が』
サブロウタの軽快な返しに、男女の身体がスッと、一歩引くように下がり、すぐ後ろのモニターが張り巡らされた壁に当たりそうになる。
無意識のその行動に、男女が思わず動揺を強める。それに対し畳み掛けるようにサブロウタは尚も喋る。
『最初色んなこと起きすぎて何も言い返せなかったけどさ、今ハッキリと言わせてもらうよ。俺ァあんた達のこと、最初からどうにも胡散臭く思ってたんだよ』
キリエル人の男女の表情が焦燥を帯びる。
『後から出てきた割に最初から必死に頑張ってたモン達のこと一方的に悪く言ったかと思えば、自分達は怪獣焼き尽くしたりウルトラマンや防衛隊ボコボコにするとこ見せつけたりでこれ見よがしに俺達は凄いんだぞと言わんばかりの乱暴なパフォーマンス、極め付けに俺一人に人類全体の決断を決めさせますで、俺が断ったら愚かだなんだ?勝手すぎるんだよアンタ達の言い分!!俺の命に刃を突き立てて脅し同然に決めさせようとしてたのだって気に入らねェ!!』
サブロウタの語気が、強く、核心を突く鋭いものとなりキリエル人のベールを剥がしていく。
男女は揃ってわなわなと身体を震わせる。
『...ま、今のは俺の意見も含まれてるけどさ、あんた達のやってたことってのはつまりそういうことなんだよ。不安でいっぱいなこの世界の人間達の心の隙間を入って語り掛けるってのは悪かなかったが...喋ってることが自分本位すぎだ。そんな真似する連中が、どんだけ凄い力見せて助けてやるって言ってきたってさ、それに全部委ねて出来上がるのは、まるでタチの悪い宗教みてぇにみんながあんた達キリエルを畏れ崇めて、そのテッペンであんた達がふんぞり返る世界だ。そんなもん...やっぱりお断りだ』
モニターから流れるサブロウタの言葉の一つ一つに、多くの者は改めて聞き入っていた。
凄まじい力と威容で全てを束ねようとした者達よりもずっと前から、今まで近くで戦ってくれてた者達がいたことを、ある者は思い出し、ある者は今一度実感し、モニターの奥のサブロウタに想いを馳せていた。
多くの人間の心が、そこから滲む気高い光が、目には見えずとも彼の一声で大きくなっていた。
それを肌で感じてか、キリエル人の男女は更にわなわなと、怒りと屈辱に身を震わせた。
そして、その勢いのままに、顔をバッと上げて高らかに叫ぶ。
『愚かだ人類よ!!貴様らは我らキリエルの寛大なる心を無碍にし、踏み付けにした!!』
『我々は人類の愚かしさに絶望した!!まずはこの男を、背信の象徴として、貴様らの前で焼き尽くす!!!』
先程までの淡々とした口調とは真逆の、大仰な仕草と叫びを振り撒きながら、男女は宣言した。
それを受け、サブロウタはうっすらと確信した。言葉通り、あの炎がこのビルを自分ごと焼くのだと。
静かに、覚悟を決め目を瞑る。
(ここまでか)
こうなることはなんとなく分かっていた。だが、言うべきと思ったことを言い、信じるべきと思ったことを貫いた。
(ごめんな。でもしっかり映しといてくれよ、マツ、レイコちゃん。俺の犠牲は、みんなにとっての大事な真実の証だ)
後悔は、無い。
(頼んだぜ)
*
キリエル人の男女の言葉に呼応し、地下空洞を灼熱の炎が迫る。
サブロウタが閉じ込められたビルを焼き尽くさんと、背信の者を見せしめに消し去らんと、凄まじい勢いで迫る。
だがそれが間も無く到達しようという時、上空から巨大な影が一瞬にして降り立った。
両肩に無骨な砲門を備えた鉄の獣・アースガロンMod.2だ。
テルアキとアンリが搭乗する形で、密かに上空に待機していたのだ。
『巨大な熱源接近。あと20秒で、目標地点に到達』
EGOISSのアナウンスがコックピット内に響く。
「よし...アンリ!多目的レーザー・マイクロ波モード、照準開始!!」
「ウィルコォ!!照準...目下30m前方!!」
テルアキとアンリの声上げと共に、左肩の砲門にエネルギーが収束していく。
『目標到達まで残り5秒。4、3、2、1─』
「マイクロ波レーザー、発射ァッ!!」
「発射ァァァッ!!」
そして勇ましい掛け声と同時、アースガロンの砲門から、波動状のレーザーが目下の地面に向け射出された。
マイクロ波となったレーザーは地面を伝い、その先の地下空洞を通ってきていた炎、否、炎へ化身したキリエル人の肉体を叩いた。
思いがけないところから叩き込まれた攻撃に、地下を進んでいたキリエル人は苦しみ、悶え、堪らず地上へと吹き上がる。
「ギッギイィ!キリィィィ!!!」
吹き上がった炎はたちまち人の形を取り、悶え苦しむキリエロイドとなった。
「やったッ!!テルアキさんの読み通りでしたね!」
「あぁ、地下空洞の外壁が焼かれた形跡は、ドローンが侵入した方向とは真逆の一方にしか残されていなかった。つまり炎、いや、炎となって移動していたキリエロイドは、あの時現れた際も消えた際も、地下空洞のそちらの方向を移動経路にしていたと分かる!」
『あとはキリエロイドがビルの方へ向かっていくのを熱源探知によりキャッチした上で、その通路である地下空洞の直上に降り立ちマイクロ波レーザーで撃ち抜く。流石です、テルアキさん、アンリさん』
EGOISSの賞賛に、テルアキとアンリは一瞬微笑むと、すぐさま前方に視線を向ける。
相手は傲慢なる力の化身・キリエロイド。
「キリエル!!」
コックピット内からスピーカーを通じ、テルアキがキリエロイドに向け言い放つ。
「キリエルに向けた、地球防衛隊の総意をここで私が代読という形で伝える...
我々は、力で従え支配しようとする者に、屈するつもりはない!!
無論、我々SKaRDも同じだ!!」
「ギィィィィ...キィリィィィ!!!」
キリエロイドがおぼつかない足取りで、怒りに身を震わせ、向かってくる。
「クオォォォォォォン!!!」
それに負けじとアースガロンも勇ましく吠え、敢然と立ち向かっていった。
*
その頃、局のビル内部には大きな困惑が渦巻いていた。
その出所は、来るはずの「裁きの炎」が来ないことの困惑するキリエル人の男女であった。
『な、何故だ...何故来ない!!』
『邪魔者だ...何かが裁きの炎を阻んだ!!』
『愚か...愚かだ人類!!キリエルの絶対なる裁きに...抗うつもりかァァァ!!』
『『ウォォォォァァァ!!!』』
この世のものと思えない凄まじい怨嗟の叫びを上げながら、男女はその身を炎に変え、壁を通り抜け姿を消した。
残されたのは、何が何やらといったサブロウタであった。
「え...何?もしかして...助かったの、俺?」
てっきりもう往生するものだと思っていたのに、決めていた覚悟が思いがけず空振ったのだと理解し、思わず間の抜けた声が出る。
「な、なんだよォ〜...せっかくもうその気だったのに...いや、嬉しいけどさ生きてるのは...」
凄まじい脱力感に、へろへろと地面に倒れ込んだサブロウタ。
しかしその顔は、満足そうな笑みに満ちていた。
「...これってつまりさ、やってくれたんだよな?へっ、ナイスだぜ、地球防衛隊サンよ...!」
*
所変わって封鎖区域外。集まった野次馬やマスコミ達の視線は、封鎖区域内に奪われていた。
起こると思っていた「裁き」が起こると思い緊張していた矢先、突如アースガロンとキリエロイドが現れ戦闘を始めたという予想だにしない光景。その様に皆が異様な興奮に包まれ、その様を目にせんと押し寄せたり、カメラのレンズを向けたりと混沌とした様を見せている。
そんな中で、レイコもレポートを忘れ目を奪われていた。
「嘘...何!?何が起きてるの!?」
だがそんな驚愕を断ち切るように、横から随喜の涙を溢れんばかりの垂れ流すタクマが飛び込んできた。
「うわあああぁぁぁッ!!レイコさんレイコさんレイコさん!!!ビル!ビル無事ですよ!!サブさんもきっと無事ですよ!!」
「ちょっ...マッちゃん!近い近い!!...でもそっか!サブさん...助かったのね!良かった...!」
「やったぁぁぁぁぁぁッ!!!」
手にしたカメラを壊れんばかりに振り回し歓喜するタクマに、レイコは可笑しそうに笑う。
「...って今はそれどころじゃない!マッちゃん!カメラカメラ!私達の仕事、やり遂げなきゃでしょ!」
「あっ...!そうだ...!よし、やりますよレイコさん!!サブさんにしっかり、後で誇らしく報告できるように!!」
そう言ってタクマは再びカメラを構え、遠景にアースガロンとキリエロイドの戦闘を捉え、その横合いにレイコを配置した構図で中継を再開した。
「皆さん!ややお見苦しいところをお見せしましたが...ご覧ください!封鎖区域内で突然、アースガロンとキリエロイドが戦闘を...」
*
封鎖区域内。遥か先の野次馬やマスコミの視線を浴びながら、アースガロンはキリエロイドの激しい近接戦闘を繰り広げていた。
「クオォォォォォン!!!」
「ギィッ...キリィィ...!!」
戦況はアースガロンの優勢。不意の攻撃を見舞われ半グロッキー状態になったキリエロイドでは、本来の戦力差を容易く埋められ押される他なくなっていたのだ。
「よし、行けるぞアンリ!このまま押し切れ!」
「ウィルコォ!!行けぇぇぇッ!!」
テルアキとアンリが叫び、それと共にアースガロンがキリエロイドに向け駆ける。
だがその時、二つの炎─テレビ局のビルから飛び出していったキリエル人の男女が化身した炎が、アースガロンを掠めるように背後から飛び出していった。
「なんだ...!?」
炎はアースガロンの眼前のキリエロイドに取り憑くと、たちまちその身に溶け込んでいった。
そして次の瞬間─
「キリィッ!!!」
先程まで満身創痍同然だったキリエロイドが息を吹き返し、見違えたような動きでアースガロンに迫ってきたのだ。
「クッ!!」
繰り出された攻撃にアースガロンの機体が揺るがされ、内部のアンリが思わず声を上げる。
後退したアースガロンを前に、目の前のキリエロイドは、キリエル人の男女の声が重なった異様な声色で叫ぶ。
『人類よ!!貴様らの背信は到底許し難い!!今より門を開き、キリエルの民をこの世界へ呼び込む!!やってきたキリエル達の炎で見せしめに、まずこの一帯を焼き払う!!恐怖しろ!!キリエルこそが真理にして絶対だと、後悔の中で知れ!!』
そうしてキリエロイドが両手を天高く見せつけるように掲げると、上空の門が、少しずつ開き始める。
その隙間から漏れる禍々しい光に、テルアキとアンリの背筋が凍る。あれを開かせてはならないと、直感的に理解する。
「あれを開かせるなッ!!」
「クッ!!」
即座に飛び立とうとするアースガロン。しかしそれよりも先に、キリエロイドが仕掛けた。
「キリッ!キリッ!キリィィッ!!」
息つく暇もない刺突や蹴りの連続に、アースガロンはその場に縫いつけられ防戦一方になる。
「マズイ...このままでは...!」
「このぉッ...!!」
コックピット内で歯を食い縛りながら、なんとかキリエロイドの連撃に食い下がる二人。
その間にも、門は刻一刻と開く─
*
だがそんな時、アースガロンとキリエロイドの方へ向け、その足元を駆ける人影─ゲントの姿があった。
一歩、一歩と迫っていくごとに強まっていくゲントの正義の心に呼応して、その左腕に神器「ブレーザーブレス」が生み出される。
と同時、ゲントのポケットに入ったブレーザーストーンが、今までにない熱を発した。
「アッ!!熱ッ!!あッツ!!!」
思わず頓狂な声を上げポケットからストーンを引き摺り出すゲント。
そこから顔を出したストーンは、高揚するように眩く輝いていた。
それを見てゲントはふっと、微かな笑みを浮かべる。
「分かるよ。嬉しかったよな。彼の言葉」
想起するのは、モニターの先で男─サブロウタが語った言葉、そしてテルアキが、地球防衛隊の総意と重ね、語った言葉。
確かにな、客観的に見て防衛隊は頼りないかもしんないよ。怪獣を刺激して危ない状況引き起こしそうになったり、退治に手間取って被害広げてしまったり...ウルトラマンもさ、側から見りゃどっから来たかも分かんない宇宙人だよ。そいでもって、思いっきり吠えてて何喋ってるか全然分からない...身も蓋も無い言い方すれば、ちょっと変なヤツではある。
でもさ、そんな彼らがさ、今まで戦って、守ってくれてたんだよ。それを見ていて、ちゃんと知ってる人間達だって、沢山いる。
その「真実」にそっぽ向いてさ、今更もう助けは必要ありませんなんて、そんな真似、人間としてできないね
我々は、力で従え支配しようとする者に、屈するつもりはない!!
無論、我々SKaRDも同じだ!!
その言葉は、ゲントとブレーザーの心に落ちた影を、照らす光に相応しい気高さがあった。
救われた。だからこそそれに応えるべきだと、ゲントとブレーザーの心が重なる。
ゲントは叫ぶ。
「行くぞ...ブレーザー!!」
そう言ってゲントはブレーザーブレスにストーンをセットする。ブレーザーブレスを覆っていたクリスタルが展開し、その先の真っ黒な穴から、赤と青の光が渦を巻く。
そしてゲントがブレスを力強く叩くと同時、光がゲントを包み更に輝く。
迸る光から銀色の巨人─ウルトラマンブレーザーが顕現し、渦を巻く丹碧の螺旋がその身に張り付いた。
「ルロロロロロロロォォォォォォォォォォォイ!!!!!!」
高らかな雄叫びと共に上空から飛び込んでくるブレーザー。
その拳はアースガロンを攻め立てるキリエロイドの顔面を、強かに捉えた。
「ギイィィィッ!?」
悲鳴を上げ地面を転がるキリエロイド。
「ウルルルルァァァ...!」
そしてブレーザーはアースガロンの横に立つと、戦闘前の儀礼さながらの構えを決め、キリエロイドに相対した。
ビルと門を照らしていた照明が一気に集い、眩い光がブレーザーを照らし出す。
その勇姿に、テルアキとアンリが歓喜する。
「ブレーザー...!」
「ブレーザー!」
地上からそれを見据えて隊員達は沸き、その中に混じるエミとヤスノブも笑みを湛える。
「ブレーザー!!」
遠巻きに見る野次馬達の多く、その他の更に遠くから画面を通じて事を見守る市井の人々の多くも、その姿に興奮する。
「ブレーザー!!!」
そしてテレビ局のビルの中、画面越しにそれを見つめるサブロウタも、自身が信じた戦士の到来に、歓喜の雄叫びを上げた。
「ブレーザァァァー!!!」
「ルロロロロァァァァァ...!!」
力強く構え、キリエロイドを見据えるブレーザー。
その荒々しくも気高い姿に、立ち上がったキリエロイドが怒りで身を震わせる。
「ケダモノ如きが!!身の程も弁えず崇高なるキリエルに吠えるなァァァァァァ!!!」
激情に身を任せ、弾丸のように弾け飛び出したキリエロイドが、ブレーザーに迫る。
「ルオォッ!!ウルルルァァッ!!」
だがブレーザーはその突撃を真正面から受け止めると、そのまま返す刀とばかりにキリエロイドの懐へエルボーの連打を叩き込む。
「ギッ..キリィィ!!」
キリエロイドは鳩尾を抉る殴打に苦しげな声を上げるも、すぐさま懐に潜り込んだ体勢のブレーザーの体の横合いへローキックを放つ。
が、ブレーザーに反応。左腕でキリエロイドの蹴りを捌き押し返すと、今度は自身が大振りの蹴りを下方からキリエロイドの上体目掛けて繰り出した。
「ウルルルルァァァイ!!!」
「グギリィィィッ!!」
放たれた蹴りの衝撃にそのまま吹き飛ばされ、キリエロイドは地面を無様に転がされる。
その隙を縫うように、ブレーザーがアースガロンの方を向き、視線を送る。
その行動の真意は、コックピットから見ていたテルアキに伝わった。
「...!今のうちに、上空の門を閉じろということか!分かった...!アンリ!!」
「ウィルコォ!!アースガロン、上昇!!」
アンリの掛け声と共にアースガロンの背中のジェット噴射が勢い良く火を吹き、その巨体が開口しようとする悪魔のように待ち構える上空の門へ一直線に向かっていく。
そのまま門を支える暗雲に着地したアースガロンは、即座に門扉へと全力の突進を見舞う。
「このまま押し込み、閉じるんだ!!」
「行けェェェッ!!!」
「クォォォォォォン!!!」
コックピットの二人の闘志に応えるように叫んだアースガロンのフルパワーが、開こうとしていた門をギチギチという鈍い音と共に閉じていく。
「キリ...!キィリィィィ!!!」
その様を下から目にしたキリエロイドは、自身の思惑を妨げる意思に怒りで頭に血を登らせると、それを阻まんと飛び立とうとする。
だが─
「ルロォォォッ!!」
「キリィッ!?」
飛び立とうとしたキリエロイドの足を、喰らい付いてきたブレーザーの腕が掴み取った。推進力を絶たれたキリエロイドの巨体が地へと引き摺り下ろされ、2体の巨人の重量が地面を叩き轟音を上げる。
続けて間髪を入れず、うつ伏せのキリエロイドの背中へブレーザーが荒々しい連撃を振るう。
「ウルルオォ!!ルルォォォ!!ルロロォォイ!!」
「キッ...キリッ...!キリィィ!!」
背後から繰り出される打撃の嵐に、キリエロイドは為す術もなく呻き声を上げる。
「ルルオォォォォ...!!」
更にブレーザーは畳み掛けるが如く、地面に倒れたキリエロイドを身体を掴み、丸ごと豪快に持ち上げる。
そしてそのままその身体を、豪快に投げ飛ばした。
「ルロロロォォォォォォイッ!!!」
「グオオォォォ...!!」
砂塵を巻き上げ地面に叩きつけられたキリエロイドは、重ね掛けするように身体を走るダメージに悶絶し地面の上で踊るように転がる。
だがその痛みを、ドス黒い激情が塗り潰した。
自分達よりも下等な生命体に地を転がされ、今その痛みに悶えているという屈辱。キリエロイドは土で汚れた身体を打ち震わせ、次の瞬間に怒髪天を衝いた。
「キィリィィィィィィィィッ!!!」
勢い良く立ち上がったキリエロイドはそのまま左の手のひらに発生させたドス黒い炎の渦から、自身の怒りを体現したような燃え盛る槍・獄炎槍を引き抜いた。
そしてブレーザーもそれに応えるように、手のひらの上の極小の黒い穴から光の槍・スパイラルバレードを引き抜く。
必殺の槍を構え睨み合う2体の巨人。最初の決戦と同じ構図。
そして瞬き一つの間を置いて、
「ルロォォォォォォォォッ!!」
「キリィィィィィアアアッ!!」
2体の巨人が駆け出し地面を蹴って飛び上がると、街の中空で構えた槍を敵へと突き出した。
ぶつかり合う2本の槍。
先の戦いで打ち勝ったのは、キリエロイドの獄炎槍だった。
だが─
「ウロロロロァァァァァッ!!!」
「ギリリィィアアアッ!!?」
多くの人間の想いを背負った光の槍は、傲慢な炎の滾りを瞬時に破った。
獄炎槍を砕き進んだスパイラルバレードの切先はキリエロイドの身体を裂き、キリエロイドは悲鳴と共に地面へ背中から叩きつけられ、ブレーザーはその反対へ着地した。
「ルロロロロロォォォォォォイ!!」
そしてブレーザーは身体を反転させると、をのまま背後で倒れるキリエロイドへ向けスパイラルバレードを振りかぶって投擲した。
「グギ...!!ギィィィィィィッ!!」
キリエロイドも即座にそれに反応。片膝立ちで起き上がり、向かってくるスパイラルバレードをすんでの所で掴み取った。
ギュルギュルと甲高い音を立てながら尚も突き進もうとするスパイラルバレードを、キリエロイドは凄まじい執念の力で押さえ込む。
だがこの時、キリエロイドは目の前の巨人・ブレーザーへの怒りに没頭していたために失念していた。
ブレーザーと共に戦う、人類の勇士の存在を。
「今だアンリ!!ブレーザーを援護だッ!!」
「ウィルコォ!!オールウェポン、ファイアーッ!!」
空から響く声。それは門を閉じ切り高速で降下するアースガロンに乗る、テルアキとアンリの叫びだった。
そしてそれに続いて、アースガロンは両肩の砲門をはじめとした全身の武装から、光線・弾丸・ミサイルを雨霰の如く放った。
目標はキリエロイド。降り注いだ攻撃の嵐はキリエロイドに着弾し、けたたましく爆発した。
「ギアアァァァ...!!」
思考の外にあった攻撃に悶えるキリエロイド。そしてその苦痛に力が緩んだ拍子に、
掴んでいたスパイラルバレードが自由を取り戻し、キリエロイドの胸部を穿った。
「グァァァァァァァァ!!!」
キリエロイドが絶叫を上げ、それに続いて更に大きな爆発が巻き起こった。
憤怒の巨人が、打ち砕かれた瞬間であった─
かに思われた。
「ギィ...キリキリキリィィィ...!!」
爆発の後に登る煙の中から、全身を焦がし胸の真ん中に光の穴を穿たれたキリエロイドがふらふらとした足取りながら姿を現したのだ。
「...!!キリエロイド健在!!」
「なんてヤツだ...!!」
アンリとヤスノブが静かに驚愕する。
そして姿を現したキリエロイドは、今までにない凄まじい絶叫を上げた。
「ギリリィィィィィィアアアッ!!」
怨嗟と憤怒に塗れた雄叫び。それは最早、理性のない獣も同然であった。
それと共にキリエロイドは、ブレーザーへ向け両の手のひらから無数の炎の弾丸を繰り出す。
「ウォォォァァァッ...!!」
ブレーザーの周囲に爆発と炎の嵐が巻き起こり、その中にブレーザーの姿が消える。
「キ-リキリキリキリィ...‼︎」
憎っくき怨敵を下し、満足そうに下卑た高笑いを上げるキリエロイド。その身を目の前の炎dr照らしながら、妖しく揺らめく。
だが次の瞬間、その炎が奇妙な挙動を始めた。
「キリ...!?」
ブレーザーが立っていた箇所へと集っていくように、炎が渦を巻き収束していく。
ブレーザーの人型が、徐々に姿を現す。
そこに立っていたのは、燃え盛る炎を模した鎧を纏うブレーザー。「ファードランアーマー」が猛る炎を全て顕現した。
その手に握られる刃「チルソファードランサー」が、雷と炎を纏い輝く。
「ウルルルルルオオオォォォォォォッ!!!」
叫びと共にブレーザーが天空へ一瞬にして飛び上がる。
「...‼︎」
声も上げられずそれを半歩遅れて目で追うキリエロイド。
だがそうして空に目を向けたのとほぼ同時、目に映ったのは刃を構え舞い降りるブレーザーだった。
「ルロロロロロロオオオォォォォォォイ‼︎」
キリエロイドの眼前に迫ったブレーザーは、その勢いのままに必殺技「チルソファード炎雷斬」を放った。
チルソファードランサーを縦に振るい、灼熱の斬撃でキリエロイドの身体を切り裂く。
「ルォォォォォォッ!!」
続けてキリエロイドが身悶えする暇も与えず、横薙ぎに雷の斬撃を見舞う。
「ギリリリリァァァァァ!?」
数瞬置いて、キリエロイドの悲鳴が響いた。
キリエロイドの切り裂かれた傷跡から、ドス黒い炎が溢れ出る。
「ルゥゥゥゥゥオォォォォォイ!!!」
そしてブレーザーはそのままキリエロイドの身体を、上方へと向けて強かに蹴り上げた。
「ギアアァァァ...!!」
上空高く打ち上げられたキリエロイドの身体。
それは高速で吹き飛んでいき、暗雲に支えられる威容─キリエルの門に盛大に叩きつけられめり込んだ。
「バ、カな...キリエルが...このような...こんな...‼︎」
門にめり込んだキリエロイドが、男女の声で苦悶の声を上げる。
それは今際の際の断末魔。
やがてキリエルの身体に刻まれた十字の傷から溢れ出たドス黒い炎すらも眩い光が塗り潰し溢れ出すと、
「ギャアアアアアアアアアアッ!!!」
キリエロイドの絶叫と共に夜の空を照らす十字架型の光が迸り、続けて巻き起こった爆発がキリエロイドは勿論、背後の門をも粉々に爆砕させた。
地上から湧き起こる歓声。
それを遠巻きに浴びながら、炎の鎧を纏うブレーザーとアースガロンは、共に戦った同士として肩を並べ威風堂々と佇む姿を見せた。
*
─数日後
キリエル人の一件で占拠されたテレビ局のビル。
地球防衛隊の事後調査も終わって開放され、通常業務が再開されたことで局員達が今一度慌ただしく駆け回る社内にて、休憩中のサブロウタ、タクマ、レイコは小さなテーブルを囲み缶コーヒーを飲んでいた。
「いやぁ、もうお終いだったかと思ったんだけどなァ...しぶとく生き残っちゃったよ」
「もうサブさん!自分のこととはいえ不謹慎なこと言わないでください!生きてるだけで儲けもん、ですよ?」
「そうっスよ!俺もう...サブさんに会えないんじゃないかと...うぅっ...!」
「あぁもう分かった分かった...!泣くなってマツ...!でもよ、あんな時でも二人が俺の言った通りきちっと色んなもん撮ってくれたおかげであの夜のことがしっかり記録されて報道されて...大勢の人にしっかり伝わったからさ、ほんと、ありがとな」
サブロウタの言葉に誇らしげに笑うタクマとレイコ。あの事件においてキリエル人の電波ジャックにより流された映像は直接記録としては残らなかったため、彼らがカメラを通じ捉えた映像やレポートは一連の顛末の記録となり、その後のメディアでもしっかり報道された。
「信じるべきことを信じ貫く...サブさんの信念をしっかり受け取って、俺らもやるべきことやったまでっス」
「サブさんがどうしたいか、何を伝えたいかは、マッちゃんも私もちゃあんと分かってましたしね」
「へへっ、嬉しいねぇ」
サブロウタは照れ臭げに缶コーヒーを啜る。
「でも、丸く収まったってわけでもないみたいですよ。どうもキリエルのあの演説に惹かれた人間もそれなりにはいたらしくて...キリエルを信仰し救いを求める小規模の集団みたいなのがたまに見られるとか」
「まぁ...人間色々だよ。そういうのだっているさ。でも、これからも俺達のやるべきことは同じだ。頑張って生きる多くの人達の小さな幸せや生活を一つでも多く守るために、正しいことをしっかり見据え、この世界の真実をしっかり伝えていく。良いな?」
「はい」
「勿論です!」
3人は改めて顔を見合わせ微笑み合い、決意を新たにした。
とその時、局員の一人が彼らの下へやって来た。
「あ、サブさ〜ん。サブさんにお手紙です」
「手紙ぃ?俺に?」
サブロウタが訝しげに自分を指差して言う。
「ハイ、差出人の名前は無くて、サブさん宛にここの住所で」
サブロウタはそれを聞き更に首を傾げながらも手紙を受け取り、頭を下げその場を後にする局員を見送った。
「なんですかね一体?」
「あの演説の後ですし...サブさんのファンだったりして!?」
「ハハ、バカ言えマツぅ。えーと何何...」
テラシマヅ サブロウタ様
突然お手紙を差し上げる無礼をお許し下さい。
このような形ではありますが、貴方様の勇気と信念、決断に敬意と感謝を示させていただきます。
貴方様の言葉は、誰かのために戦う者達の心強い支えとなりました。
これからも貴方様のことをささやかながら、密かに応援しています。
この世界に生きる、大勢の人々のために、お互い立場は違えど精進して参りましょう。
敬具
「...どゆこと?」
「要するに...サブさんカッコよかった!これからも頑張れ!ってことですね?」
「身も蓋もねぇなァ...」
「もしかして...
ウルトラマンからの手紙だったりして!!」
タクマの冗談めかした言葉に、サブロウタとレイコは一瞬きょとんとする。
「...ハハ!ばぁか、何言ってんだよマツ!ウルトラマンが手紙書くかぁ?どうやって書くんだよ?」
「え、え〜でもウルトラマン、意外と器用かもですよ?ホラ、釣りとかクレーンゲームとかするし...」
「それ関係あるマッちゃん?ていうかそうだとしてどこから投函するのよ?」
「それは...あっ!実はウルトラマンは人間に化けてるとか...」
「まぁたまた...」
穏やかな日常が、今日も過ぎていく。
これがいつ何かに脅かされるとしても、それと戦う勇士が、その姿を伝える者がいる限り、
この平穏は、きっと終わらない。
ED:Brave Blazar (feat. MindaRyn) - YouTube