AnDrew’s小生意気レビュー記

作品の感想レビュー記事をメインに投稿しています。作品への造詣を深め楽しみつつ、それを他の方々とも共有できる場になれば。よろしくお願いします。

この世で最も黒い絵

岸辺露伴 ルーヴルへ行く

感想レビュー

 

 

※本レビューはネタバレを多分に含みます。未鑑賞の方はご注意の上、鑑賞された後に読んでいただくことをお勧め致します。

 

ドラマ動かないシリーズの冒頭で毎度露伴先生のヘブンズドアーの餌食になる実質オープニングアクトのお二人(演・中村まことさん&増田朋弥さん)、今回の映画でもばっちり登場して本にされてくれてましたね...本にされるシーンも4度目となると堂に入ってますねぇ!!

でも実際この二人のシーン、初っ端で露伴先生の人となりや信念、ヘブンズドアーの能力を初見にも分かりやすく伝える上では凄く良い流れなのであると安心するのである やっぱこれないとドラマ動かないは始まらないんすわぁ!!ドラマ動かないが続くなら今後とも是非出て欲しい

 

およそ3年近くに渡り年末のTVドラマ史を盛り上げ続けたドラマ岸辺露伴は動かないシリーズの満を辞しての映画化となった「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」、この度自分も初日朝一で観に行って参りました。原作の動かないシリーズ、引いては荒木飛呂彦作品特有の外連の効いたタッチで描かれる奇妙な物語を役者陣の堂々とした名演や緻密な諸演出により実写スケールへとナチュラルに落とし込んで描き上げるクオリティの高さはTVドラマの時と変わらず、主舞台のパリの風景をはじめとした豪奢な画や細やかに耳に響いてくる音響といった劇場版スケールだからこその満足度を感じさせる要素が満載となっており、劇場まで足を運んだ甲斐があった...!と思える良き一作であったなと。愛犬バキンが鳴き声だけだったけどさり気なく存在を仄めかされてたり、原作でも謎に印象的だった露伴のおばあちゃんが(出番増量で)登場してたりと、今までのTVシリーズや原作を知る人に嬉しい小ネタが色々あったのも良き 露伴のおばあちゃん出るとは一応思ってたけどマジにあの小さい丸型サングラスのビジュアルそのままだったとは思わなかったぞ(しかも後々露伴先生まであのサングラスかけて出てくるし...w)  加えて終盤に出てくる黒の絵の「この世で最も黒い」という文言にを最大限表現したと言わんばかりの、見ていて引き込まれるようなビジュアルがとても目を惹いたのをはじめ、全体通してまさに「魅せる芸術」と言うに相応しい画がふんだんに入れ込まれたアーティスティックな映画だったなとも思います  特にパリの美麗な街並みやルーブル美術館内部の装飾や芸術品を劇場のスクリーンで見られるというのがもうめちゃくちゃ最高なので、ほんと行ける時に劇場まで観に行くべきですわよ 物語終盤頃の夜のルーブルサモトラケのニケとか、モナリザの前に同じ構図で並ぶ高橋一生とか、資料映像や写真でもまず見ないと思うのでとっても貴重

 

本作、原作のルーヴルへ行くがそもそも動かないシリーズの中でも特に長編の類であるとはいえあくまでも単発で完結する一エピソードに過ぎないだけに「2時間尺の映画に落とし込んではたして間延びしたりダレたりしないだろうか」みたいなのが最初はちょっと心配だったのですが、いざ蓋を開けてみると原作のストーリーの軸や要点をしっかり押さえつつも、冒頭の導入パートおよび終盤の過去描写をはじめとしたオリジナルシーンの追加原作だと怪異の犠牲者モブ枠くらいの役割しかなかった野口さんや消防士達(+原作のゴーシェにあたるであろう辰巳)にドラマに絡む形でのちょっとしたバックボーンの掘り下げ等を与えることによるストーリーの肉付けなど、物語のテーマ性や物語の細部の解像度を上げる独自のアプローチを細かく入れ込み、ドラマ版動かないシリーズの劇場版としてしっかり2時間の物型に仕上げていたのが見事であったなというのが個人的に大きな評点でありましたね。原作だと露伴先生の過去回想の後億泰のふとした一言がきっかけでスッと進んでく感じだった物語の導入が、『最も黒い絵』を求めてのオークションへの参加、露伴先生の落札した絵を奪いに乗り込んできた謎の男達、および彼らの不審な死という展開が次々繰り広げられた後、絵に刻まれた『ルーブル』という言葉をきっかけに露伴先生が過去の出来事を思い出し(ここで中盤にガッツリと過去回想パートへ)、絵と絵の作者の謎に迫るべくルーブル美術館へ取材に赴く...という感じでググッと引き込んでくる流れになっていたところが滑り出しから良い見応えだったし、そこから転じて露伴先生が手に入れた黒い絵の画家の存在が中盤〜終盤にかけてのルーブル美術館における大きな波乱・ミステリーじみた展開に繋がっていくという伏線配置も鮮やかな全体通しての道筋が意識されたストーリー構成もとても良かったなと。原作の魅力や要点の咀嚼と再構成、その上で話をスムーズに分かりやすく見せるための各種配置要素のリンクのさせ方がTVドラマ版よろしくめちゃくちゃ上手で面白かった  上記の辰巳や消防士達のバックボーンというところにもこの黒い絵の画家が絡んでくるのだけど、そこがストーリー展開上の流れの一つというだけでなく「罪や後悔の記憶がトリガー」という黒い絵の怪異の能力を分かりやすく示す(荒木先生作品特有のちょっと難解な異能描写を視覚的に伝わりやすくしてる)上での描写としてさり気なく配置されていたりとか、そういうとこの手並みが秀逸なのだ(というか「最も黒い絵」の異能の原理を「光を反射し人の姿を写す鏡の対比となる、光も通さない黒」という形の比喩によってさり気なく補強してたりと、この辺の言語化や補足が上手すぎる)

 

また本作のゲストキャラである奈々瀬周りの描写がかなり強固に肉付けされていて、彼女自身のキャラ性、および露伴先生との関係性の掘り下げが原作以上にかなり推されていたのも大きな見所でありました。原作でも「昔のこととはいえあのヘンクツ露伴先生にこんな青臭い恋慕みたいな感情が...!?(クソ失礼)」って感じで割とクリビツだった奈々瀬の影のある色香とその中に垣間見える人間的な感情に惹かれる姿が、しっとりとしたムードの過去描写の中でしっかりと描かれてドラマ的に良い見応えでしたね。雨音や風鈴の音色といった色んな環境音をしっとり聞き入らせるような音響周りや夜のシーンの仄かに照らされた闇の中で静かに語らう若露伴先生と奈々瀬のシーンの独特の雰囲気といった演出周りも凄く味わい深くて好き

からの奈々瀬の方も、先に述べた終盤のオリジナルの過去描写により原作では割と断片的だった細かな内面までグッと読み取れたのが凄く面白かったよなぁと。これまた原作だと地の文で軽く語られる程度だった「奈々瀬の旧姓は『岸辺』」「奈々瀬が夫・仁左右衛門の怨念を止めるために露伴を選んだ」という要素を、仁左右衛門の姿は露伴と瓜二つだった、とすることでガッと深めてきたのおおっとなりましたよね...この映画で深く触れられ語られるに至った仁左右衛門の奈々瀬と共に歩んだ生い立ちも、妻の奈々瀬を強く愛するがあまり、自身のプライドもかなぐり捨てて自身の命すら焚べて絵に没頭し、理想とする色そのものな禁忌の「黒」に魅入られ、そしてその末の妻の死に怒り狂い全てを憎悪する修羅と化す...という素朴で爽やかな男が徐々に崩壊し狂っていく様があまりにも悲壮で、本作のクライマックスを彩るに相応しい凄まじい熱量であった 露伴先生との二役になった高橋一生さんによる、爽やかな佇まいがじわじわ鬼気迫る様に変わってく演技のパワーよ...文字通り「黒」に染まりながら堕ちていく最期のシーンは圧巻の一言

そしてこれらの露伴先生と奈々瀬周りの描写を包括する形で描かれた、クライマックスの二人の対面のシーン、これも良い味わいで魅入ったところでありましたね。露伴先生はウン十年経ても奈々瀬への何かしらの特別な想いを心の奥底に持ち続けていたし、奈々瀬も最も想っていたのは夫のことであるし露伴は夫の怨嗟を断ち切るために近付いたに過ぎなかったという中で彼女なりに露伴先生に抱く想いもあったのだろう、という感じで二人の間を取り巻く独特の距離感を多くは語らず空気感として描き出したあの画はとても沁み入るものがあったね 奈々瀬・仁左右衛門の過去回想編という大胆なオリジナルを挿入しつつもそれを単一のドラマとしても劇的に描き上げ、且つそこを原作からシフトしてきた露伴先生と奈々瀬の関係性の深掘りに繋げ「ルーヴルへ行く」全体をグッと引き締めるとこへ繋げた手並み、見事の一言に尽きる

 

あとやっぱりここは欠かせまいというところなのがお馴染み泉くんの存在感。これまでのTVシリーズにおける殆どのエピソード同様、今回のルーヴルへ行くにおいても本来なら登場してないキャラである関係上本筋にはほぼほぼ絡まない(まぁルーヴルへ行く自体が露伴先生にかなり依るエピソードだから尚更しゃーないけども)のですが、やっぱりそこにいて喋くってくれるだけで場が一気に賑やかに華やぐから楽しいし(過去回想編とかが物静かだったりシリアスだったりで基本的に重苦しい分彼女の存在の良い意味でのやかましさは2時間尺の映画としては実際けっこう良いアクセントであった)、何より終盤で野口さんを彼女ならではな前向きな人生観と情による寄り添いで救ってみせたところは露伴先生とは違った魅力がグッと押し出されてて凄くグッときたよなぁ...と。昔亡くなったお父さんとの繋がり方みたいなところを語るシーンも「自ら進んでいった先の未来に何かを見出そうと前を向く」的な在り方が凄く泉くんらしくて彼女のキャラ性を象徴するものとして劇的に輝いていたし、尚且つ「後悔などでもって過去に囚われる」的な本作のある種のテーマの対比としてドラマ的に上手く活きてもいたしという感じで本作全体で見ても凄く良いシーンだったし、今回の泉くんはほんとドラマ動かないシリーズとしてもかなり重要な立ち位置してて良かったなと感じますね  黒い絵を見たけど別になんともなかった」とかいう陽/前向きの権化故の無敵っぷりをさらっと示してきたところも含めてとてもよろしかった() TVシリーズでもなんぼか仄めかされてたけどやっぱり怪異耐性強すぎるぞドラマ版泉くん...!!怪異の類でありながら泉くんを堕とした富豪村の神の評価が相対的にぐんぐん上がっていく...(

 

 

以上、映画ルーヴルへ行くでした。総じてドラマ動かないシリーズの魅力を映画スケールでしっかり発揮し、華やかに魅せてくれた良い一作であったなという感じでとても面白かったですね。監督渡辺一貴さんと脚本小林靖子さんによる、荒木飛呂彦ワールドの独特の雰囲気の再現と実写映像媒体でこそ映える形を追求するからこその大胆なアレンジが今回も光る光る...演者さん達のパワフル且つ繊細な演技の数々も相変わらずハイレベルでとても魅入った やっぱり最高だぜドラマ動かない

さて立ち位置的にドラマ動かないシリーズの集大成的なものになったであろう本作を経て、今後ドラマ動かないシリーズはまだまだ続くのかどうかというところも気になりますが、とりあえずは一旦の一区切りかなというところで。素晴らしい作品をありがとうございました 願わくばまたこのグレートな作品に出会うことができると信じて、一先ずお疲れ様でした それとなく期待をしながら今年の年末もそわそわしながら待ってるぞ!!

 

というわけで今回はこの辺で。最後まで読んでいただきありがとうございます。 読んでて共感できたり楽しめたりしたところがあれば幸いです

気に入っていただけたら次回も読んでいただけるとありがたいです。感想をくださったり記事の拡散等をしていただけたりすると更に喜ぶぞ!!

ではまた