AnDrew’s小生意気レビュー記

作品の感想レビュー記事をメインに投稿しています。作品への造詣を深め楽しみつつ、それを他の方々とも共有できる場になれば。よろしくお願いします。

希望が見えなくて

仮面ライダークウガ

EPISODE13・14「不審/前兆」

感想レビュー

 

-あらすじ-

メ・ビラン・ギによる凄惨なゲゲルで多くの人々が犠牲となる様を見つめる男「蝶野潤一」。未確認生命体であるかのように振る舞い警察を挑発する彼の心は希望を失い、生きることへの諦めに満ちていたー

一方、ジャンや実加達による九郎々岳遺跡の発掘作業において、発見された謎の出土品が雄介/クウガと共鳴し、不思議な動きを見せ始めていた。

 

  • 蝶野潤一

全てが思い通りに行かない人生を悲観し生きることに希望を持てなくなり、全て無くなれば良いという想いから、人間を狩り暴れる未確認生命体を「価値の無い奴らをこの世から消している」として称え、自分自身もその真似をして彼らに近付こうとする...しかしそれらは全て、心の奥底にある不安や死への人一倍に強い恐れの裏返しである
という、スレているながらも人間味が感じられどこか共感できるような部分もあるキャラクター性が物語全体を通して感じ取れる蝶野さん。

人間誰しもが持つであろう弱さやどこか身勝手な部分というものが押し出される形で描かれたキャラであり、形や程度は違えど善性が根底にあることを主軸として描かれてきたクウガの人間サイドのキャラの中ではほぼ初めてのタイプのキャラで、人間の「弱さ」「心の闇」とでも言う部分にクウガの物語の中で切り込むきっかけとして物語のアクセントになっているのが良いですよね。今回からクウガ初登板となった井上敏樹大先生の描いたキャラなだけあって、一癖あるながらも数話の出番の中で一言では表現し切れない深みを見せる存在に仕上がってるのが流石であり、人間の心の闇などがテーマの一部として描かれる作品(アギトや555等)を今後紡いでいく井上さんの色が出ているなぁと感じます

ちなみに今回この13、14話を観ていて、実を言うと自分は蝶野さんの気持ちにちょっとシンパシーを覚えたのですよね。初見当時の頃は、まだ子供という年齢だったことや作品の内容を今ほど理解し切れてなかったこともあり蝶野さんのことは「強いグロンギに憧れる人間」くらいの認識を出なかった感じだったのですが、成長して社会に出て、思い通りにいかないことに沢山直面したり自分と性格の合わない人間と接する機会が増えたりした今見ると「自分を取り巻く閉塞感や思い通りにいかない物事を滅茶苦茶にしたくなる感情」みたいなところで蝶野さんの気持ちはなんとなく理解できるというか(勿論変な意味で言ってるのではなく、人間的な心理の話ですが)。誰しもがふっと感じてしまう弱さとも言える感情だけど、そんな時に全てを滅茶苦茶にして行くように振る舞う未確認生命体とか怪獣みたいな存在が現れれば、極端な人なんかはそれを持ち上げ崇めてしまうんじゃないかなぁ、と。本当クウガという作品は心情描写がリアルで事細かな分、成長して観てみるとまた新しい発見があるなぁとたびたび思いますね

 

また余談なのですが、自分が実在する人間であると暴かれて蝶野さんが言った

「未確認生命体が蝶野っていう人間になりすまして、何かの目的でこうやって...警察に入り込んでたらどうなるかね?」

という台詞、本人的には苦し紛れだったんだろうけど、これある意味後年の「小説 仮面ライダークウガ」の一部内容を示唆してるんですよね。これは観ていてちょっと驚きました。小説を執筆した荒川さんが今回のこの台詞を踏まえたのかどうかは知らないけど、人間社会に適応したグロンギの変容として、ズバリなとこ突いてたなぁと

小説 仮面ライダークウガ (講談社キャラクター文庫) https://www.amazon.co.jp/dp/4063148513/ref=cm_sw_r_cp_api_i_AgxMFbD5HY3WG

 

  • メ・ビラン・ギ

ビランによる小型のフェリー客船襲撃の描写、逃げ場のほぼ無い水上の船という舞台で運転手を手にかけたビランがゆっくりと現れ、それに気付いた人々が叫び狂い船上に一挙に追い詰められ...というシチュエーションが恐怖を煽って観ていてハラハラしました。今回の話でビランの描写において幾度も強調される「血」の演出も効果的に効いてるし

何より逃げ惑うフェリーの乗客の中に子供がいたのが恐ろしいとこで、他の人間が襲われてる時のように直接的な描写こそなかったけど...つまりはそういうことなんですよね ある程度ぼかしはしつつもこういうとこまで容赦なく描くのエグいなぁ

 

作業現場におけるクウガとビランの初戦闘。周囲の物を盛大に壊して粉塵を巻き上げながらの戦闘や水辺での水飛沫をあげながらの戦闘が繰り広げられる金田監督ならではの泥臭い演出が強く際立っており、力強くかなり見応えあるバトルだったなと思います。クウガ自体がリアルな作風な分こういう演出と相性が良いのもあるけど、金田監督ってやっぱり30分尺の短い中だと力強くて迫力ある戦闘の魅せという点でメリハリの利かせ方が上手いなぁと感じます TV本編で力発揮する方だなと

またビランの攻撃を受けたクウガの装甲に深い傷が入ってる描写も生々しく目を引くところで、こないだのギイガといいこういう描写が増えてきてグロンギの強さが増していっているのが実感できるのは上手い

 

  • ドジっ子ギャリド

廃車置き場で見つけた車を気に入り、バックに夢中になりご機嫌になってたら後ろの車にぶつかり目をぱちくりさせるギャリド、ここだけ見たら演出のシュールさも相まってコミカルさのあるドジっ子的な可愛げを少し感じるんだけどな...次回の話での所業知ってるとそんなこと微塵も感じねぇのよな...シュールに描かれる「バックします」の音声の演出がまさかトラウマの布石になろうとは そうでなくても腕章の安全ピンを直接肌に縫い付ける描写など、生理的に理解不能な不気味演出も抜かりなく描かれるのでヤバいやつなのは見て明らかなのだけど

 

  • 五代と蝶野

病室の蝶野と対面し、未確認に憧れる気持ちを問う五代さん。それを受けお前には自分の気持ちは分からないと声を荒げる蝶野さんに返した

「人の気持ちになるなんて、誰にも出来ませんよ 思いやることなら、なんとか出来ますけどね」

という台詞も五代さんの優しさ、真摯さが出ているよなぁ。前述したような蝶野さんの抱える人間の弱さを表す感情というのは人柄上五代さんには理解し切れないものだろうし、だからこそ思いやって歩み寄りたい、と彼なりに向き合おうとしてるのが伺える。

そして黙り込む蝶野さんの前に立ち言った

「蝶野さん、生きてますか?

生きてるなら、生きてることを、自分で楽しくした方が良いと思うけどなぁ」

という正鵠を射た台詞もまた良き。皆の心に響く言葉だよなぁこれ。

 

多くの人間の死に向き合っている経験があってか「人間はいつか死ぬ」という事実を真っ直ぐに理解しているある種達観した一面を持ち、そしてそれ故にその「いつか平等に訪れる死」を罪なき者に問答無用で突き付け人生を終わらせてくるグロンギを決して許さないと考えている

という司法解剖医としての椿さんなりの正義感がしっかり力強く示されたのは、今回の白眉たる描写の一つでしたね。

ビランの犠牲になり生涯を終えた被害者の亡骸の前に、死など怖くないと強がり未確認生命体に同調しようとする蝶野さんを連れて行き、死がどういうものかを厳しくもしっかりと突き付け理解させるシーンは椿さんの矜恃と真剣さが出ており、椿さんのキャラが一気に深まったとても好きなシーンでした。

急に呼び出してきた一条さんに冗談ぽく悪態をつく2人の間柄が伺えるところや、五代さんの話にそれっぽく同調しつつそれとなく身体を調べさせてもらおうとするちょっとマッドなところなど、初登板ながら井上さんの椿秀一というキャラへの熟知度には感心させられるところ やっぱキャラ作りが上手いわ井上大先生

彼女を連れてドライブデートしてる描写はなんとなく井上さんのある種独特のテイストが濃く出てるように思うけど...w

 

  • 俺は

未確認出現のニュースを聞き現場へ乗り込んできた蝶野さんはクウガとの戦闘から逃れてきたビランと遭遇。

未確認生命体なら自分を理解してくれる、という想いから「俺は...」と口を開いた蝶野さん

それに対しビランは「エ モ ノ ダ」と無情なる言葉を繋ぎ、容赦無く襲いかかってきた...
未確認は価値の無い人間を消している、奴らなら自分を理解してくれる、という想いを端的にまとめて引き裂くビランの返しはシンプルながら秀逸だよなぁ...グロンギにとって人間は皆ゲームの標的としての価値しかない、理解する必要など感じてすらいない存在であり、所詮蝶野さんもその1人でしかなかったという...

 

最終的には間一髪駆けつけたクウガに助けられ、ビランもドラゴンフォームとの戦闘で撃破されることとなって事なきを得た蝶野さん。そして変身を解いたクウガの正体が五代さんであったことを知り驚愕。優しい笑顔を向ける五代さんの姿を見て彼はその場を駆け出し後にするしかなかった...
今し方自分を容赦無く屠ろうとしていた化け物と同じ存在ながら、その正体が自分に歩み寄り救ってくれた男であったと知った彼の心持ちは如何に...

余談だけど蝶野さんのこのシーンの前に一条さんがビランを誘き寄せるためにボートで行動していて襲撃を受けボートから川へと落とされるシーンがあったのだけど、プロデューサーの高寺成紀さん曰く、ここのシーンで一条さんを演じる葛山さんは川の水をしこたま飲んで腹を下してしまったそうな お疲れ様です...
高寺成紀☺10月31日(土)13〜14時「怪獣ラジオ(昼)」@調布FM on Twitter: "#クウガ20周年配信 ボートから川に振り落とされ、川の水を飲んでしまった葛山さんが下痢になった、というのは有名過ぎるエピソードですね😆 #クウガ #超配信 #kuuga #nitiasa #クウガ20周年"

 

  • 謎の影

そんな物語と並行して描かれていたのが、長野の遺跡からジャン達が発掘した発掘品の描写。クウガ/五代さんの脳内に謎のビジョンがフラッシュバックする様といい、輸送中のトラックをぶち壊し飛び立つ様といい、物語に新たな波乱を巻き起こすことを予感させる一連の描写のサスペンス感が堪らんかったですね その正体は...また次回

個人的には発掘作業に一緒に携わるジャンと実加が凄く仲良さそうにしていたのがとても好きなところ。第7話でのファーストインプレッションが最悪だっただけに、自分にできることにお互いしっかり向き合うことを決めたことでああして良い関係になれたのは本当良かったなぁとなる

 

 

以上、クウガ第13・14話、後の平成ライダーシリーズを彩る井上敏樹大先生の本作初登板回 井上さんの得意とするテーマであり、クウガにおいて意外とあまり触れられてこなかった部分である、人間の負の側面寄りの弱く脆い心の描写に「蝶野潤一」という人物を軸に据え描いた話となっており、今回においては彼が明確な答えを見つけこそしなかったものの、彼に向き合う人々の人となりや想いが強く輝き魅力となっていたとても面白い回でした。何度も言うけど、改めて感じたこととしてはやっぱり井上さんは短い中でのキャラメイクというか、印象付けが凄まじく上手いなぁ。特に椿さんに焦点を当て、彼の人間味や信念を深く描き出した作劇は渋くて良いなぁとなりますね 椿さんと蝶野さん、2人の関係は今後の話でも濃いドラマを作り上げるので必見です

 

 

というわけで今回はこの辺で 最後まで読んでいただきありがとうございます

次回もよろしくお願いします 気に入っていただけたら記事の拡散等していただけると喜びます!

ではまた