AnDrew’s小生意気レビュー記

作品の感想レビュー記事をメインに投稿しています。作品への造詣を深め楽しみつつ、それを他の方々とも共有できる場になれば。よろしくお願いします。

「×××××」

ドラマ 岸辺露伴は動かない

第2話「くしゃがら」

感想レビュー

 

 

露「ホントにつまらないもの貰ったなァーッ!!(天を仰ぎながら)」

十「そういう声出ちゃうよねェーッ(椅子にめいっぱい項垂れながら)」

の一連の台詞の言い方と動き、あまりにもジョジョキャラのそれでとても好き。「カナリビビッタヨ、チビリソウダ、サイコ-」「よし、ボツだな 分かりやすくて助かる」のやり取りもなんか好き

志士十五、原作エピでは小説媒体故に文章上でしかその人となりを見て取ることはできないのだけど、露伴先生と同等以上のグイグイ加減で相手のテリトリーに踏み込んできて相手をいつの間にか自分のペースに巻き込んでいくあのキャラクターの映像上での表現があまりにもイメージそのまんまで、完璧という他ないんですよね...森山未來さんの絶妙なテンポ・テンション感の演技が最高なんよ ビジュアルも文章上ではあまり明記されてなくて元は全然どういう感じか知らないはずなのに、ちょっと服を着崩した感じのあの独特なチャラい佇まいが、原作を読んでる時感じた上記のキャラ性から想像されるビジュアルそのまんまなのも思わず唸ったところ。制作陣のキャラクターへの理解が深すぎる...

そんな癖強すぎな十五だけど、漫画家としてリアリティや「知ること」を深く追求する職人気質な一面もあり、どこか憎めない良いキャラなのが良いよね 基本的にソリは合わないけど、リアリティの追求とか表現の規制に対する譲れない意地とか、漫画家としては通じ合う部分もあってたまに凄く息が合うという露伴先生との掛け合いもコミカルで凄く好き(原作でも十五のこと「漫画家としては嫌いじゃない」って言ってるしな露伴先生)。まぁ9割くらいめちゃくちゃに振り回されてるんすけどね!!() 嫌味言っても凄くにこやかに受け答えされちゃうし、たまに賛同できる部分があって自分から歩み寄ろうとしてもいつの間にか話が変わってて華麗にスルーされたりとか、十五の無敵っぷりにストレスが露骨に顔に出る露伴先生不憫() 泉くんも同じタイプだし、この世界露伴先生に厳しい。w(基本他人なんか知るかって感じの露伴先生も割と最強だけど、それすら物ともしない無敵の人はどうしようもないんだなぁ....)

 

様々な作家さんが執筆した岸辺露伴は動かないの短編エピソードをまとめた短編小説集第1段に収録されていたエピソードの一つ「くしゃがら」を映像化した今回の話。短編小説集のエピソードはもれなく映像化どころか漫画化も今までされることがなかったので、本エピソードが他媒体で可視化されたことは当時もかなり驚きでありましたが、個人的に小説エピソードの中でも特にお気に入りなものの一つが映像化されるということで非常にワクワクしたのを覚えていますね そして他の小説エピソードも今後の盛況次第では映像化があり得るかもということで期待も高まったものでした

そんな岸辺露伴は動かない短編小説集ですが、第1〜3弾に収録されていたエピソード群をそれぞれランダムに収録した岸辺露伴は叫ばない」岸辺露伴は戯れない」が絶賛発売中です。様々な作家さんが書かれたバラエティ豊かなエピソードが満載でオススメですので、今後ドラマ化されるかもしれないエピソード達に目を通してみてはいかがでしょうか。「くしゃがら」は「叫ばない」の方に収録されています。是非

 

と、前置きが長くなりましたので本題へ。原作のネタバレもちょーっと含むので、読めたら先に読んでおいた方が良い、かも

 

本エピソードのテーマはズバリ「好奇心は猫をも◯す」といったところで、意味も由来も謎な「くしゃがら」なる単語について知ろうとする些細な好奇心が次第に人間を狂気へと誘っていく様を濃く描き出す、というじわじわと押し寄せてくるような恐怖がぞくりとくる話となっているのが特徴。僕自身、ふと有名人の顔や作品の印象深いワンシーンなどを思い浮かべても、その人物や作品の名前が喉につっかえたかのようにぼんやりと思い出せない/そもそもその顔やワンシーンしか分からないせいで凄くモヤモヤして、調べようにもどう調べれば分からず悶々となり、朧げな情報を下に曖昧な単語や情報で検索を打ったりしてみる...みたいな、好奇心にまとわりつかれて躍起になってしまう忘れようとしても分からないままでいるのが我慢できず余計思考が冴えてしまうといった経験が日常生活でたまにある(というか誰しもそういった経験は少なからずあるのではなかろうか)ので、それが行くとこまで行くと人間凄まじい執念で狂ってしまう...的なロジックにはなんとなく理解できる部分があり、その「身近な恐怖感」こそが本エピソードの独特な魅力となっているなと感じるところ。明確な怪異や不条理が起点となる他エピソードとはまた違った趣があるよなと(一応くしゃがらも怪異の類って感じではあるんだけど、話を発展させていくのが人間の好奇心というところなのでやはり性質はまたちょっと違う感じあると思う)。

ドラマ版ではその「好奇心の暴走」という部分を映像を通じてより鮮烈に描き出しており、拭えない好奇心に惹かれ徐々にそれのみに傾倒し狂気を帯びていく十五の様子が可視化を経ていっそう生々しく表現され、より良質な短編現代ホラードラマに仕上がっていたのが実に良かった。道端に落ちたチラシに「くしゃがら」の記載があるように見えて飛びついてしまう姿や、一旦忘れて寝ようとするもそのことが頭を離れず結局眠れない様子寝食を忘れて書物を読み漁りまくった結果足の踏み場もなくなった自室など、原作にはなかった十五のフォーカスしたシーンが補完され、グッと迫真さが増していたところもグッド。それっぽい記述を見た気がして街中のポスターとかに近寄る、一旦頭を冷やそうとしてもやっぱり忘れられない、作業に没頭していつしか部屋が散らかってる...とこれらはいずれも気になることがある時誰しもがやっちゃいそうなことだし、ここでも「身近な恐怖」というところは強調されてるなと

 

そんな狂気に取り憑かれていく十五自身の雰囲気自体もだんだんとヤバくなっていくところもまた強烈に目を惹いたポイントでした。足取りもロクにおぼつかないような動きとか、本屋の店主や露伴先生に急に爆発したみたいに逆上し出す気が触れたような精神テンションといった見るからにヤバいと印象付ける言動の出し方が上手すぎてここでも森山未來さんの演技力がめちゃくちゃに光ったね...顔色が心なしかげっそりして土気色になってるっぽく見えてくるところがまた このおかしくなった十五の一連のシーンの中に、飛んできた蝶の動きを朦朧とした意識で何かと思いながらぼんやりと追うように指でなぞるシーンがあって、初見時はここもなかなかにヤバそう感出てて引き込まれたんだけど、故に後でここのシーンの動きが森山さんの咄嗟のアドリブだったと聞いた時は驚いたね...凄すぎる

 

この十五の異常行動に対し、露伴先生がいつもの自分勝手さどこへやらといった感じで普通に十五に気を遣い世話を焼く、「らしくない」行動してたのもある意味事態の異常さを印象付けていたというかなんというか。十五の餓死を心配してピザの出前頼んであげる甲斐甲斐しい露伴先生(ドラマオリジナルシーン)、絵面としてあまりにも貴重() 自分と一緒にいた奴が飢え死にしたとなったら色々面倒だから...ってのもあるだろうが

露伴先生はこのドラマシリーズでも全体通して好奇心にひたすら忠実で、危険に自分から首を突っ込んでいく姿が印象深いだけに、そんな露伴先生がこのエピソードでは「そんな気になることがあったら自分だってひたすら知ろうとする」と自覚した上で「もう忘れた方が良い」と十五に忠告するという、ある種の知的探求心の否定に入っていた辺り、何か野生の勘のようなものが発揮されるほど相当に危険で異常な雰囲気が漂っていたんだろうな...と思えるんですよね。前回のエピソードで露伴先生の潔いまでに自分勝手でリアリティへの探求心が強い一面がしっかり描かれてるからこそ、原作の露伴先生知ってる人は言わずもがな、ドラマで初めて露伴先生を知る人達からしても、「露伴先生らしくない行動」として目に映るようになってるから良い構成である。 しかもそれを伝えてる相手が、漫画家としての拘りにある程度共感できる相手として描かれていた十五だから余計にそう感じるなと(だからこそ「 自分だってそーする」と前置きしたんだろうし)。ぶん殴ってまで止めようとするほど(放送コード的な問題か、原作だとガチでぶん殴ってたのが寸止めでビビらせるのになってはいたけど)なの、露伴先生自身も相当必死だったよなぁ

ちなみにこの寸止めのシーン、露伴先生が殴りかかって止めたポーズから自然にジョジョ立ちっぽいポーズに移行していくという小ネタ的な描写があり、実に良い遊び心でありました。凄くナチュラルに落とし込むから自分、当時すぐには気付かなかったのよなここ

 

ここから話はクライマックスに突入。暴走し露伴宅へ襲撃してきた十五を相手に、彼を狂わせた「くしゃがら」の記憶へ迫る展開となりました。ここのシーン、「なんとッ!『くしゃがらピザ』だァ〜」とか「ヘブンズドアッッッ!!!(迫真)」とか妙にパワーワードが連発されてたのが今でも記憶に濃く刻まれている。w くしゃがらピザ、元々原作小説に無かったシーンだけど、あまりにワードのパワーと繰り出されるシーンの流れや絵面がジョジョならではの異様さに溢れてたのでみんな「元々無いシーンだったの...!?」って驚いてるのがまた印象深い

すかい「文章」ギオン on Twitter: "くしゃがらピザを発見して露伴先生の所に来た森山未來、ピザ持ってくるだけで喰ってる必要はないし、これまで何も食わずに活動してたのにいきなりくしゃがらピザ喰ってるのもおかしな話ではあるんだけど、ピザ食いながら狂ってる絵面、ジョジョっぽさでいうと満点だからな…… #岸辺露伴は動かない"

珪素 on Twitter: "百歩譲って「この岸辺露伴が」の台詞は確かに岸辺露伴解釈が完璧な人なら書けるかもしれないけど、くしゃがらピザは絵が先に存在しないと出てこないやつでしょ……!"

チャブ・マネジメント on Twitter: "「くしゃがらピザだァァァァァアアアア」が原作に無いシーンだと知って恐怖した。小林靖子は脳内に荒木先生がいるのか?"

しおしお on Twitter: "なんと「くしゃがらピザ」だッ! うわははははははーーーーーッ… "

そして、十五の記憶の本のページの途中から突如としてびっしり書き殴られ始める「くしゃがら」の文字や、不自然の姿を現す真っ黒な袋とじなど、人間の人格や記憶をも侵食して迫り来るくしゃがらの不気味な演出もゾクっときて実に良きでありました。他者の記憶を包み隠さず暴けるヘブンズ・ドアーの力を持ってしても閲覧できない領域/覗くことが憚られるような深淵が記憶の中に生じている異物感、「禁止用語」という性質故にそれを忘れるよう名称を書き込むこともできない不条理さ、といった「動かない」シリーズだからこそできる恐怖の表現が上手いよね 袋とじのビジュアルは小説の方とはちょっと違ってたけど、表面がなんかねちょねちょした黒光りの袋とじがひとりでにガサガサ蠢くあのビジュアルもあれはあれで怖かったので良し

 

最終的に、くしゃがらを知ってから今に至るまでの記憶の消去という力技で十五は救われたものの、その後、十五に絡まれた本屋の店主もまた「くしゃがら」という言葉の意味が気になって仕方がない状態に陥りかけていたところが描かれ、十五が今までにくしゃがらを調べようとする過程で多くの人間にその言葉を広めた可能性があり、他にも同じようになる人間が現れる/現れているかもしれない...という不穏さを残すオチとなりました。未知のコンテンツがそれに関心を持った人からまた他の人へと伝わってトレンドになっていったり、誰かが話した噂が加速度的に広まっていって都市伝説的なものになっていったり、といった「言葉の拡散」はSNS等が発展した現代ではより身近な概念となっていますが、それを「細菌やウイルスのように人間の好奇心を媒介として伝播していく性質」という感じで不気味に彩った良いオチだったね...こういうなんとも言えない後味の悪さが残るオチ好きだ ちなみにドラマだと「くしゃがら」という言葉は「その言葉への好奇心に支配されておかしくなりそうだった担当編集が、自分に代わってその意味を調べてもらう意図も込め、知ってて十五に教えた」というところから十五に広まったとされているけど、原作だとその担当編集の存在自体が本当に存在してたかどうかも怪しいある種の怪異だったのではと示唆されるような形になっており、この不可解な部分の残し方もミステリアスで好きなんですよね。ドラマの方も「言葉の拡散」という純粋な性質を押し出す形になっててこれはこれで良きであったが

 

... とこれで終わりと思いきや、最後に

おことわり

視聴者の安全のため、番組内で使用した『くしゃがら』は、実際の単語とは違うものを使っております。

NHK

という表記が登場、マジの禁止用語なんだからそもそも作品としても直接書けませんよ、というメタフィクション要素込みのトンチが効いた描写で締め括った、なんとも秀逸な二段構えのオチとなりました。当時原作の方をあまり読んでない視聴者も多かったし、このオチに感嘆してる人が多かったのは印象的でした

ちなみに原作でもこのオチは用いられているんだけど、こっちは読んでる我々に更なる不穏さを叩きつけゾッとさせてくる感じになっていてまた違った面白さがあるのでオススメ。是非原作を読んで確かめていただきたいところであります

 

 

以上、ドラマ岸辺露伴は動かない第2話でした。言葉の拡散、好奇心の深化といった身近な概念を用い、なまじ恐怖感の想像しやすい現代ホラーへと昇華させた作劇が絶妙で、オチまで含めて秀逸な展開運びを原作とはまた微妙の違った形で描き上げた良いエピソードでありました。また今回に限った話ではないけど、キャラクターの雰囲気や台詞回し、 節々の所作に至るまで、ジョジョの世界観をしっかり踏襲した登場人物の取り回しが効いてるのがやはり良いなと、初映像化となった十五の表現で強く感じましたね。遊び心の入れ方まで含めグッドでした

 

というわけで今回はこの辺で。最後まで読んでいただきありがとうございます。 読んでて共感できたり楽しめたりしたところがあれば幸いです

気に入っていただけたら次回も読んでいただけるとありがたいです。感想をくださったり記事の拡散等をしていただけたりすると更に喜ぶぞ!!

ではまた