AnDrew’s小生意気レビュー記

作品の感想レビュー記事をメインに投稿しています。作品への造詣を深め楽しみつつ、それを他の方々とも共有できる場になれば。よろしくお願いします。

君は見たか 黒く燃える太陽を

仮面ライダーBLACK SUN

感想レビュー

 

 

※本記事は「仮面ライダーBLACK SUN」の内容に関するネタバレを多分に含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

終わることないdestiny

届くことないmessage

もう抜け出せないの?I don't know

過去に戻れはしない

主題歌「Did you see the sunrise?」のサビのここの歌詞の一節、全話観終わった後だとズバリ本作を象徴してるよなぁ...と

 

仮面ライダーシリーズでも特に根強い人気を誇る作品の一角たる「仮面ライダーBLACK」のリブート作品として、主演に西島秀俊さんと中村倫也さんを据え白石和彌監督が手がけた本作、Amazon Primeにて2022年10/28より独占配信されぼちぼちと観進めておりましたが先日無事全話視聴完了致しました。配信限定のR18指定作品と言われてた通りなかなか容赦ない描写がバカスカ入るのも強烈な作品でしたが、いやはやそれ以上に凄まじいところ多しな作品でしたね...単なるゴアがどうとかとはまた別のとこで「これはR18すわ...」と思わざるを得ないとんでもない作品だった 

そんな本作が如何な作品たるかを端的に言い表すならば、「『仮面ライダー』というヒーローのカタルシスにそっぽを向いて描く、悪の群像劇・因縁の連鎖の物語」といったところになるでしょう。

配信開始前のあらすじや予告映像でも描かれていた通り、本作は人間と怪人という2種属を隔てるレイシズムや陰謀といったところを主題としたかなり生々しく陰鬱とした世界観や設定が軸となっているのが特徴なのですが、そこをこの「仮面ライダー」というブランドにおいて描くとなれば、おそらくはまぁ大抵の人が「世界を取り巻く歪みや闇に切り込みながら戦い、やがて世界に変化をもたらしていくヒーローの物語」みたいなところを大なり小なりイメージすると思う、というか少なくとも自分はR指定故の殺伐とした描写や容赦ない展開等でメンタルをめためたにしてきつつも物語全体としてはそれを踏み越えていく的なカタルシスで魅せる展開がある作品になると視聴前は思っていたわけなんですよ(本予告映像の方も、怪人差別や非人道的な改造手術といったダークな描写を入れつつ、それに被せるようにして光太郎の怒りの変身や「創世王は、俺が殺す...!」の台詞といったヒロイックさを押し出すようなカットが入ってくる、という感じでいかにもな構成になっていましたし)。ところがどっこい、実際に本編にて全10話の物語を通して描き上げられたのは、差別と暴力を更なる力で塗り潰し叩きのめさんとしていく、血で血を洗うような争いの物語にして、その中で微かに光る希望とも言える願いや想いが拗れ伝わり更なる争いの連鎖やうねりに繋がっていく無情な世界の趨勢であったわけで、これには本作を最後まで見終えた上で大変度肝を抜かれましたね...人間と怪人の平等を力強く説く葵怪人を取り巻く悲しみの連鎖を「怪人の歴史への幕引き」によって終わらせようとする光太郎や信彦をはじめとした、世界の在り方に抗う意志を持つ者やもどかしさを感じる者などが主要な登場人物として物語を取り巻き展開していくという、さながら前述したような世界に対する変革の物語に繋がっていきそうな前半の作劇から、やがて物語が激しく波打ち進んでいき後半に入っていくと共に、「人間も怪人も、命の重さは〜」の言葉の真実怪人の運命を握る存在として鎮座する創世王が抱いていた人並みの愛や悲しみ因縁の果てに相対し殺し合う光太郎と信彦の幼馴染2人に対し、その親である南博士・秋月博士がかつて信じ託したものといった、渦巻き続ける戦いの根底にあったささやかな優しさや希望の存在が明らかとなっていき、それらが様々な思い違いによって間違われ、ねじ曲がり、そして踏み付けにされた/踏み付けにされ続けているからこそ今の壮絶な迫害と争いの歴史があるという非情な現実が叩きつけられるというあまりに惨すぎるカウンターが強烈なんですよねぇ  物語を通して多くの登場人物の根幹を成す大切な言葉であり、現在進行形で続く世界の歪みに抗う言葉でもあった「人間も怪人も命の重さは〜」というゆかりの台詞すらも、元はドス黒い陰謀の一端から生まれた空虚な言葉でしかなく、それが紆余曲折を経てゆかりの真意を知らないオリバーに言葉だけが伝わったことで今に至っているのだという皮肉な構図もこれまためちゃくちゃ強烈なんですよね...あんないかにも大事な信念みたいな感じで中心に据えてたフレーズをよくもまぁ終盤で盛大にぶち壊せるな!?()

そしてそのあまりにやるせなさすぎる道程の末に至った物語の結末に関しても、光太郎の意志を受け継ぐように「変身」してみせた葵が「戦いと悲しみの連鎖を断ち切って終わらせて欲しい」と切に願う光太郎を涙ながらに介錯することで、文字通り戦いの連鎖に終止符を打った...という悲しくも希望あるオチになったように見せかけて、世界を取り巻き続ける不平等や不条理に対し葵やその仲間達がなおも「武力でもって戦い続ける」道を選ぶという結局光太郎の想いが真に伝わったとは言えないラストとなる、という感じで、最後の最後まで切なる想いや希望が届かないままに、世界は迫害やそれに伴う争いを続けていくバッドエンドじみたオチになってしまうので、これにはもうひたすらに驚愕するばかりでありました。とどのつまり、正しい形で継承されていったものが殆ど無く、それ故に生まれた歪みの重なりが世界を捩じ曲げ続けているしこの先もそれが止まることはないであろう、というひたすらに辛いやりきれなさこそが本作の物語を取り巻くテーマだなぁ、という感じだよなと  人の心無いんすかね()  まぁぶっちゃけ言ってあまりにも気持ち良さもへったくれも無い展開ではあるのだけど、現実世界を取り巻く諸問題に付き纏う難しさみたいなものにも通ずるある種のリアルさみたいなものが滲んでいたように思うし、普通の作品では決して描けないそれをしっかりと段階を経て最後まで突き通したことは確かな本作の筋であると感じたので、「仮面ライダーBLACK SUN」という作品の形としては実に見応えあったなという感じで、個人的にはかなりアリかな、と

 

またそんな物語を取り巻くキャラクター達の描き方も、一癖二癖三癖もあるところまで含めて凄く良かったポイント。本作のキャラクター達は前述したように理不尽で不条理な世界の中でその在り方に抗おうとしてる者やどこかもどかしさを感じてたりする者といった者達が大多数であり、物語全体に前述したような無情さが世界を取り巻いているという中で、それぞれが間違ったり燻ったり倫理等を外れたりしながらもそれぞれの信じるものに従い、それを貫いて生きようとする様がなんかこう、綺麗・潔白などでは決してないんだけどどこか輝いて見える、というこの感覚がなんかとても良いんですよね。葵を自分の目的のために売ってしまったり、本編中で普通の人間にとってはショッキングなものとなっている怪人化を一貫して嬉々として受け入れたりとお世辞にも真っ当とは言えない感性をしてるけど、その清々しさが一周回ってなんか気持ち良く感じてしまうし、その胸中にある大義を抱えてることが分かることで1人の人間としての信念や筋が感じられてなんか好きになってしまうニック辺りが一番分かりやすいけど、(倫理的・状況的など色んな意味で)常に正しいと言えることはしてないしそもそも人格的にもアレなとこは多いのだけど、その上でクソみたいな世界で強かに、自分自身や自分の信じるもののために全力で生きてる奴は強いし、そこにある種の美は見出される、的な味わいが好きというか。故に前述した葵周りにオチに関しても、傍目から見ればやべーと思うし普通に作品としてもバッドエンド寄りだとは思うんだけど、キャラクター目線に立つと「間違い切った歪さがあるながらもそれを強引にでも突き通そうとした故の1人の存在としての決断」にも思えて、後味悪くも気持ち良くも思えるので、この絶妙さはほんとに上手いなと。それぞれ色んな咎や事情はありつつも、なんやかんやで気持ちを同じくして集い、気さくに楽しく語らい、一緒に戦う仲間となったコウモリクジラノミのトリオの姿とかも、あの世界ならではの癒しって感じで好きだったわね  というのがあるからこそ、「かつて愛した女の理想を胸に生き続けていたが結局それが空虚なハリボテでしかなく、それを無くした上で自らの決断で革命を起こし全てをかなぐり捨て戦ったが、実のところは『また昔一緒に志を共にして仲間達と戦った頃のようになりたかった』だけであった」という信彦の物悲しい生き様がギャップとして映えるのもまた好き 中村倫也さんの名演が光る怒りと悲しみを湛えた勇ましいキャラであるけれど、色んな因縁に振り回された哀れな男でもあるのよな...

そんなキャラクター達を泥臭く濃く描いたことにより、本作に登場する誰も彼もが一様に良きにも悪きにも括れないし正しいにも間違っているにも括れないという独特な味わいを持ってるのも良きポイント。信彦や葵は先に述べた通りであるし、光太郎も主人公でありながら実のところ世界を取り巻くあれやこれに対してはあまり積極的でないし(物語開始時点では厭世的且つ無気力で、葵達との交流を経ていった後でもミクロ寄りなところを目的にしてて差別どうこうに積極的に首を突っ込まない)、という感じで、サブキャラは勿論のこと、普通作品の主軸として一般的に応援したくなるような動機とかをあてがわれそうなメイン格のキャラや勢力にも「それどうなのよ?」みたいな側面とかが付随していて、それ故に全体的に色んなキャラクターをフラットに俯瞰できるというところは本作ならではの突き詰め方であり面白さであるよなと思うんですよね。堂波に対し最初こそ「対等な交渉のための拉致・世間知らずのクソボンボンへの灸据え」って感じで緩めにいじるくらいだったのにだんだん優位な立場からなぶるのを面白がっていってる節があってちょっとどうかと思う時もあった50年前の五流護六そんな五流護六からの仕打ちがあったからこそ(元の人格がアレなので遅かれ早かれだったかもだけど)あんな風に怪人を極端に虐げるようになったかもと思えて若干の同情が湧かなくもない堂波、って感じで一見するとざっくり良い方悪い方に分けられそうな勢力図/キャラの相関図も、掘り下げて見てみると良きところ悪しきところがどこに対しても少なからず見出せるのが面白い。本作一のクソ野郎なまである井垣に関しても、井垣の所業に怒りを爆発させた信彦が「怪人による人間の支配」という本質的には井垣達とやってること同じじゃない?と言えてしまえそうな行動に走ってた辺りを踏まえると、井垣もかつて怪人達との間で信彦と同じようなことがあったんじゃ...?とか想像できるし、本編中では悪に据えられただけで実際のところは分からないという余白があるのが良い(演じた今野さんも「井垣視点だと井垣は正しく見えるのかも」と言ってたしね)

総じて本作は、間違いながらも自分の信じる何かのために強く生きる者達の物語を描く「悪の群像劇」と言えるよなというのが個人的な想いですね。まさに「信じる奴がジャスティス」を地で行っていたと言えよう。実力派の役者さんを多数起用しただけあったどのキャラもより魅力的になったし良かった 葵役の平澤宏々路さんなんかは常に物語の中心で色んな感情溢れる演技を見せてくれてたし、最後の西島さんに負けず劣らずの力強い変身もめちゃカッコ良かったし凄く良き これを機にますます躍進して欲しいね

ちなみにそんなBLACK SUNのキャラクターの中でも個人的に好きなのはビルゲニアさん。さんつけろよ(迫真)  序盤〜中盤こそ堂波の犬みたいなムーヴや葵一家に対する所業とかでこのクソがよ...みたいな感じだったんだけど、様々な状況が山場となった終盤で今までの身の振り方がツケとなってしまいどの勢力からも信用されず行き場を無くしてしまい、恩師的な存在の人から今まで縋ってきた理想や偶像も折られ、と可哀想を極めてきたところでちょっと印象が変わり、そしてその後文字通り身一つも同然になりどこか悟ったようにも萎れてしまったようにもなった末、最後に今の世界を取り巻く理不尽を穿ち人間と怪人のために進もうとする葵の理想に寄り添い戦い抜くことを選んで戦うというあの最期に至ったのが凄く熱かったんですよね...フィルムの件といいどこか燻ってるような素振りは所々で見せてたし、色んなものから解き放たれて色んなものをありのまま見えるようになった分その燻った理想への炎をまた燃え上がらせることにしたのかなとか、葵のことを昔の理想を強く燃やす自分に重ねて託したくなったのかもなとか思えたのもまた良いんだわ(利用したり憎んだりし合う最悪の関係だった葵にじわじわ優しくなっていってからの、ケジメと言わんばかりに葵に気づかれないところであの孤独な最後の戦いを為すという流れは粋すぎたし、葵も終始憎み続けたビルゲニアが最後の最後に自分のために戦い抜いたのを見つけて少し悲しそうになるのがまた胸にきた)  ある意味一番人間臭いキャラだったと言えるし、その辺が刺さったのかもなぁ 良いキャラだった

 

そして最後、本作を語る上で欠かせないポイント、原典「仮面ライダーBLACK」のリスペクトという部分を語らずにはおけないでしょう。ある意味一番強烈な部分だったからな()

いやホント、三神官とかキングストーンとかビルゲニアとか色々原典BLACKにまつわる要素とかがだいぶ余すことなくレベルでじゃんじゃか出てくるので製作陣の気合いの入れっぷりをひしひし感じるんだけど、三神官が特に理由も無いまま人間名とかでなく「ダロム」みたいなまんまの固有名で呼ばれるとか、なんか凄い力を持った石だぞ!!!レベルで押し通されるキングストーンとか、なんでそうなのとか別に理由もなく他の怪人と違って人間の顔がまんま出てるビルゲニアさんとかいう感じで「BLACKがそうなんだからリスペクト作のBLACK SUNでもそうなんだろうがよ!!」の勢いで諸要素の理屈をブチ通してるのがめちゃくちゃストロングで、清々しいと共に面白すぎるんですよね...w そして極め付けの最終回OPのアレですよ、馬鹿ですよね(褒) 歌そのまんま、構図ガッツリオマージュ、若干ガビガビの画質にクソデカ文字のキャストクレジットと、あそこまでやる奴がいるか いたわ()  製作陣対談でやたら異様に推されてた「ビルゲニアと向き合わなければならない」発言の時点でただならぬものは薄々感じてたけど、それでああなるとは誰も思わんてさ...!! その上でビルゲニアの顔出しデザインの意味合い自体に関しては「人間と怪人の両方に依る存在としてその間に立って双方のために戦う葵に寄り添い守り抜くあの最期を為す存在だからこそ、ビルゲニアは人間にも怪人にも見えるある種の歪さを持ったあの姿である」みたいなドラマ面での熱い文脈が読み取れるようになっててちゃんとビルゲニアに向き合ってるのがまた異様なんすわ() それを踏まえても「結局ビルゲニアだけなんで顔出しの姿なのか」という作品上の理屈は別に無いというのがまた(

まぁでも個人的なとこを言うとこの辺の理屈をあまりきっちり固めてない感じや、原典そのままというところに開き直った感じはかえって潔くてスッキリしてて好きなところだったりもするんですよね。下手に理屈こねくり回してガチガチに固めた結果頭でっかちになったり、それっぽいシチュエーションのオマージュとかを半端に擦って興醒めになったりするよりかは楽しかったし良かったよなという感じですわね これまでに述べた濃厚なドラマやキャラを描く上でその辺の理屈とかはかえって邪魔になってたかもだし  ともかくBLACKのリスペクト・オマージュという点では思い切りの良さ含めなかなかに好きでしたね 最高

 

 

以上、仮面ライダーBLACK SUNでした。当初想像してたのとは全く違った意味でR指定・大人向けであることに納得させられることとなった凄まじい一作でありました。個人的にはかなり満足ですね...強いて言えば「仮面ライダー」の看板でやるテーマだったろうか?みたいなのはあるかもしれない(その点コンセプトとかが似たような感じのアマゾンズは割とニチアサロジック的なヒーロー風味とかは外しておらず、且つ独自色も強めていてって感じで対照的だったんだなと)けれど、それを踏まえても余りあるほどに一つの作品として通した筋の強固さと見応えには唸りましたね。BLACKときたらRX、というのがあるのでちらほら続編なんかを期待する声もあるけど、それはまぁほんのり期待する程度にということで

ともあれ、賛否両論も納得ではあるものの、鮮烈な印象を残した素晴らしい作品であったなと思います。楽しかった!

 

というわけで今回はこの辺で。最後まで読んでいただきありがとうございます。 読んでて共感できたり楽しめたりしたところがあれば幸いです

気に入っていただけたら次回も読んでいただけるとありがたいです。感想をくださったり記事の拡散等をしていただけたりすると更に喜ぶぞ!!

ではまた