AnDrew’s小生意気レビュー記

作品の感想レビュー記事をメインに投稿しています。作品への造詣を深め楽しみつつ、それを他の方々とも共有できる場になれば。よろしくお願いします。

「あなたはどう思いますか」

#真相をお話しします

感想レビュー

 

 

 

2023年7月17日、所用につき立ち寄った本屋の話題作特集コーナーにてふっと視線が引き寄せられる形で見つけた本書、帯のコメント等にも何か惹かれるものを感じて衝動買いし、買ったその日に一息で読了しましたが、いやはや面白い一冊でした。普段こういう出会い方はしないのだけど凄く良い出会いだったなと改めて なかなかドラマチックだし悪くないなこういうのも!

 

そんな本書はジャンルとしてはミステリー小説で、異なる立場や人柄の登場人物5組をそれぞれ軸にした計5つのエピソードが収録された中編オムニバス形式で構成されているのが特徴。いずれのエピソードもそれぞれの主人公となる登場人物の視点でほんのりとした違和感や不穏さがじわじわと滲み纏わりついてくる展開を追っていく内容となっており、そこに隠された驚くべき秘密が少しずつ読み解かれていくと最後には...といった感じのストーリーが見所となっています。いずれのエピソードもそれぞれストーリーの趣こそ違えど、段階的に明かされていく秘密、およびその過程で繰り広げられる登場人物のドラマによって緻密に構築されたミステリーテイスト濃いめの物語は非常に重厚で、それなりに読みやすいながらも肉厚で読み応えのある中編ストーリーを5本連続で楽しめるのが実に満足度が高かったですね。

まずなんと言っても随所への伏線の配置や全体通してのその回収といったミステリーテイストの取り回しの巧妙さは本書最大の見所として外せないポイント。そりゃミステリー小説としては当然粗雑じゃアカン部分だろうというところではありますが、文章中の一見何気ないふとした一幕や描写をさり気なくも重要な伏線として細やかに、さり気なく配置する文章表現がほんとうに巧みで、クライマックスに近づくにつれそれらが分かりやすく丁寧に回収されることで発生する、「あぁこれってそういう...!」「えっそういうことだったの!?」という気付きや驚きが正しくミステリー作品らしいカタルシスになっていて、読書感として凄く気持ち良かったなと。月並みな表現にはなってしまうのだけどほんとうに“巧い”の一言に尽きてしまうほどにミステリーとしての文章の組み方が素晴らしいんですよね。これを一本約40ページ前後の作品群としてそつなくまとめ上げているのがまさに見事。程良い区切りが各エピソードの合間にあり、それでいてそれぞれの話ごとの読後感が凄まじく爽快なのでページをめくる手が進むんですよ...寧ろ中編エピソードのオムニバスという形にしたからこそ、謎の回収までダレすぎないテンポ感とストーリーの重厚さが綺麗に両立され成り立ってたとも言えるし、この形態にしたのも秀逸であったなと

あとミステリ要素とはまたちょっと違うとこではあるのですが、ストーリー全体通しての基本の文章表現自体が何気にとても上手で、そこも本書の読み応えをググッと引き上げてたポイントであったなと思いますね。登場人物の雰囲気や人となり、彼らを取り巻く背景、シチュエーションや情景等をイメージさせる細やかなで詳細、それでいて読みやすい描写が随所で光っており、これにより文章中で繰り広げられているものの脳内でのイメージ化が捗り、登場人物達と同じように物語中の奇妙な違和感や不穏さにゾワっときてしまう、そんな没入感があるんですよね。特定の人物の感じているひりつくようなプレッシャーとか、何が起きているか理解できない困惑とか、こういうのを登場人物と共有しながら読み進められる感覚というのが実に痛快。次の瞬間には何が起きてしまうんだろうという緊張感、これをさり気ないところからぐんぐんと掘り下げているところはミステリー小説の魅力の出し方としては上々であったなと感じました。

 

続いてはそんな本書の各エピソードのあらすじ及び見所をネタバレにならない範囲で軽くご紹介。一つでも刺さるものがあったなら是非に、ということで。

 

①惨者面談

家庭教師仲介ビジネスの営業マンをしている大学生・片桐がいつも通りの営業で訪れた一人息子の夫婦の家庭、そこで対面した母親と息子との面談が始まるも、家の所々や彼らの態度には明らかな違和感が滲んでおり...というエピソード。本書の一番手を務めるエピソードということで割とミステリ要素はライトめというか、読んでいて「あ、そういうことね」というのがぼんやりとではあるけど他のエピソードに比べ割と分かりやすいのが特徴でありましたが、それでも次に何が起こるとも知れない緊張感みたいなものを片桐の視点から共有する感じのスリリングさはとても惹きつけられるところであり、正しく本書の「導入」として非常に高い完成度のある一本です。クライマックスにて「なるほど、本書はこういう感じか...!」ときっと唸ることでしょう。他のエピソードもそうだけど是非に文章の一つ一つを最初のところから読み逃さぬよう。

②ヤリモク

娘・美幸がパパ活をしているのでは、と心配しつつ自らもマッチングアプリ若い女性とのパパ活に勤しむ42歳妻子持ちの男・ケントの、マナという女性との一日を描くエピソード。あらすじからしてほんのり違和感を感じるかと思われますが、ちゃんとそこもストーリーの一つの軸になっているのでご安心を(帯のあらすじ紹介文でもさらっと取り上げられてる部分です)。見所はズバリ「どんでん返し」で、これ自体は本書のテーマでもあり各エピソードの殆どに共通するところでもあるのですが、肌感としてはそれを一番に体現していたのがこのエピソードではないかなと。タイトル含め物語の各所に散りばめられた要素の数々を拾い集める形で成される帰結には、ほぼ間違いなく殆どの人間が不意を突かれること請け合い。最後の最後まで目を離すな。

③パンドラ

不妊の苦悩の末に子を授かり、その経験から精子提供を始めた男・翼を取り巻く親と子の物語、といったエピソード。感触としてどちらかというとミステリ要素よりも人間ドラマに軸足が置かれているという感じで、本書のエピソードの中だとやや変わり種な一本:その分一本のストーリーとしての読み応えは非常に高く、思わず惹き込まれる心情描写の数々には是非注目していただきたいなと。無論ミステリ要素も無いわけではなく、この人間ドラマにほんのりとアクセントを加える要素として上手く機能しているのでお楽しみに。タイトルに込められた意味が読み解かれた時、何を思うかは皆様にお委ねします。これまた他のエピソードとは毛色の違う、胸にくるラストも必見。

④三角奸計

学生時代からの友人・茂木と宇治原と共にリモート飲み会に興じる男・桐山に襲い来る異常事態を描くエピソード。昨今主流となった「リモート◯◯」において潜み得る心的・物理的な距離の隔たりを絶妙な緊張感として利用しハラハラさせつつ、そこに潜んだ真実で盛大に驚かせてくる独特な空気感と緻密な構成が見所の一本で、「惨者面談」とはまた別ベクトルで常にまとわりついてくる「次に何が起きるか」という緊張感は必見です。ミステリー作品らしい「騙し」という点にかけては本エピソードが最も強い、かも。一番狂っているのは誰か、一番悪いのは誰か。

⑤#拡散希望

YouTuberへの憧れを抱く島育ちの少年少女4人を中心として展開される、恐るべき秘密に巻き込まれていく彼らを描くエピソード。ラストの一本を務めるエピソードということで、ストーリー各部の緻密さやインパクトは本書のエピソードの中だとかなりクオリティは高し。加えてぶっちゃけ本書のエピソードの中だとぶっちぎりのおぞましさを誇るエピソードなのではないかな...と。あと今にして思うと、という感じではありますが、これまでのエピソードで取り上げられたテーマや要素を上手く換骨奪胎・集約させたところもある感じがして、本書の大トリに相応しい一本だなとも感じますね(実はそれぞれのエピソードは繋がってて...という物理的・物語的な地続きの接続みたいなことではなく、精神性やテーマというところのピックアップ・折衷みたいなイメージ)。ともかく読んだら分かると思うので、あらすじも他のエピソードに比べややぼかし気味にしました。是非本書を手に取り、各エピソードの大トリ、本書の締めとしてご覧ください。

 

 

てことで「#真相をお話しします」の紹介でした。上の方で色々語ったのでここではぼちぼちにしときますが、とにかくミステリー作品としてはかなりクオリティが高いんじゃないかなと。良い出会いだった。

読みやすく良い感じに読み応えもあるので、これで気になったら是非書店で買い求めるか、記事冒頭からのご購入を...

 

というわけで今回はこの辺で。最後まで読んでいただきありがとうございます。 読んでて共感できたり楽しめたりしたところがあれば幸いです

気に入っていただけたら次回も読んでいただけるとありがたいです。感想をくださったり記事の拡散等をしていただけたりすると更に喜ぶぞ!!

ではまた