AnDrew’s小生意気レビュー記

作品の感想レビュー記事をメインに投稿しています。作品への造詣を深め楽しみつつ、それを他の方々とも共有できる場になれば。よろしくお願いします。

MUSIC

ウルトラマンブレーザー

第9話「オトノホシ」

感想レビュー

 

 

音楽は

あらゆる知恵や哲学よりも高度な啓示である

 

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

 

今回のエピソードは、音楽を経てアンリと通じ合った男・ツクシホウイチと彼が率いる楽団が紡ぐ、優しく切ない物語。ガラモンが実に57年ぶりのシリーズ出演、且つTVシリーズでのウルトラマンとの初対決ということでも注目されており、その注目度に相応しい大活躍を見せてくれましたが、それ以上にドラマがね、凄く沁みる一作でしたね...

余談ですが、聞いたところによると今回の脚本の植竹須美男さんは今年の2月15日に急逝されており、時期的にどうやら次回の第10話と併せ本作が遺作な模様。文字通り魂のこもった本と言えるであろうというところですが、少なくとも今回に関してはその文言に相応しい素晴らしい魅力と熱量に溢れていたなと感じます。植竹さん、最高の作品をありがとうございました。ご冥福をお祈りします。

https://x.com/juliet3comet/status/1700521689363390876?s=46

 

そんな今回のエピソードですが、主題のツクシやガラモンについて踏み込んでいく前にまず、これまで謎に包まれていたゲント隊長とブレーザーのあれやこれに切り込んだAパートの内容へ。第3話で断片的に描写された両者の邂逅の過去回想シーンや前回のゲント隊長の「頼むブレーザー、力を貸してくれ!」の台詞をはじめとして今までの描写の中でも描かせていたところではあったけど、やはりゲント隊長とブレーザーはちゃんとそれぞれ別の存在としてそれぞれの人格が同居し合ってるというのがここでより明確にされましたね(ブレーザーはゲント隊長の内なる本能の具現であるみたいなのだったり、ゲント隊長はもう生物的に死んでいてブレーザーが代わりの人格を担っていたりってのがこれまで考察としてちらほらあったので)。その上でこの2人のやり取りみたいなのもしっかり描写されるところとなったけど、見たことのない物に興味津々というさながら幼い子供のような好奇心旺盛な一面を垣間見せたブレーザーそんなブレーザーに言葉がちゃんと通じなくても同じ目線に立って話そうとするゲント隊長、という構図はバディというよりなんだか親子のようであり新鮮で面白かったですわね ブレーザーに対してまさに子供相手みたいな感じで「◯◯して良いかな〜?」「俺の言ってること、分かる?」みたいに物腰柔らかに朗らかな対話を行ってるゲント隊長は妻子持ち設定の説得力がグッと増したし、ちょっと緩い感じがより良い愛嬌になったなと。w 次回のエピソードの内容的にも良いタイミングの補強だったなと思います あと第6話でのクルルに対する懇願のシーン、当時はちょっと隊長のキャラをオーバーに崩し気味かなとか思ってたんだけど、今回のブレーザーへの話し方を見ると意外とあれがこの手の相手へのデフォルトの話し方だったんだなとなりましたね

にしてもブレーザー、ここにきてゲント隊長の身体を借りてぬっと表に出てくるようになって、これは面白い変化だなと。前回眠るゲント隊長の夢の中に銀河のイメージで入り込んできてめざめさせるような一幕があったけど、あそこが何かゲント隊長の意識へのアクセスの壁か何かに対する一つの変化のきっかけだったのかなぁ...?なんて思ったり ブレーザーの意識の上にされてた“蓋”みたいなものが臨死により弱まった、とか  でもブレーザー、これからも知らない間にゲント隊長の意識と入れ替わって好奇心のままに彼の体で色んなことしそうなのでゲント隊長は何気大変そうだな...となる() マジで少し目を離した隙に悪戯したりしてる子供にてんてこ舞いの親みたくなりそうで...頑張れって思ってしまうw ともあれ今後もこの2人の関係についての掘り下げは楽しみなとこね

 

さて本題、今回の“主役”とも言うべき男・チルソニア遊星人─ツクシホウイチと彼の率いる楽団の物語へ。予告でも示唆されていたように今回の話のテーマはズバリ「音楽」ということで、星/文明の全てを奪う計画を実行する刺客として降り立った地球で触れた「音楽」に魅了され、自分達で奏で表現するまでになった遠い星の異邦人達の、純粋に「音楽」を愛する心いずれ来る使命の時との狭間での愚かしくも愛おしい葛藤を、しっとりとしたタッチの人間ドラマと要所でドンと繰り出すツクシ役の東儀秀樹さん達による演奏をバックにした音楽との調和とコントラストによるメリハリで繊細に叙情する作劇が非常に素晴らしいポイントとなっていました。音楽を心の底から楽しみ愛しているけどそれでも元の使命からは逃げられず向き合わなければならない悲哀、そこに敢えて愛する「音楽」を交えることで共に音楽の良さを分かち合った人間─アンリに自分達の企みを気付いて止めて欲しいと願う足掻き、これらがツクシ達の純粋な音楽への愛の上でいじらしく胸に響く描写としてくるんですよね...60年前に通信機器設置のためにやってきたツクシ達チルソニア遊星人の集団を描くシーンも、はじめはモノクロの画面で描かれるのであーなるほどウルトラQのオマージュなのねと思ってたら、その後彼らが音楽に触れて感動したところを境に画面がカラフルに色づいていくので、実際のところは「使命」を淡々と果たすだけの空虚だったツクシ達の心が音楽に触れて色づき華やいでいく様を象徴的な効果として表現したものだったのだと分かって、観てる時に思わず静かに感嘆してしまいましたよ

 

でもってそんな彼らの感情に寄り添ったツクシ達の演奏、これはまさに今回の白眉たる演出だったと言えるでしょう。本場の演奏者たる東儀秀樹さんをドンとゲストに据えただけあり、純粋に音楽を楽しむ優雅な旋律、言い聞かせながら使命に殉じようとする荒々しい演奏、それでも隠し切れない悲哀が滲み出る穏やかなメロディ、といった感じで音楽が各場面のツクシ達の心情を言葉や表情に負けないくらいに雄弁に物語っているのがとても、グッときましたね まさかウルトラQ OPテーマのアレンジで来るとは思っても見なかったので、そこも意表を突かれおおとなりました(演奏開始前に奏でてた不協和音的なパートもよく聴くと実はウルトラQタイトルロゴが出る時のSEの再現という粋さ)  今回前半部分にやたらCMが短い間隔で入ってくるのでなんだこれと思ってたのですが、後半における彼らの演奏をCMが挟まらないひと繋ぎのドラマシーンに乗せてしっかりと描き切るため、CMが挟まってぶつ切りになり雰囲気を損なわないようにするために敢えてCMを前半に集中させていたと分かった時はかなり感激しましたね...簡単にはできない構成なのかもだがドラマを取ってこうしてくれたのはとても嬉しいね  またツクシ役の東儀秀樹さんも、演奏者でありつつ俳優でもあるというところがしっかり活きて、音楽の面でも演技の面でも凄く味のある感情を魅せてくれたので、ツクシというキャラにかなりの奥行きを作り出してくれたのが本当に素晴らしかったなと。両方兼ねてる人ってそういないだろうし、実にナイスキャスティングであった 同じく味のある演技と演奏を見せてくださった、東儀さんの息子さんの東儀典親さんをはじめとした楽団の皆様もとても良かった

 

そんな彼らが繰り出したロボット怪獣ガラモン、先にも述べた通り超ご無沙汰にして初のウルトラマンとの戦闘という大一番に立ったわけですが、ここの戦闘もめちゃくちゃ良かったところでありました。あらゆる攻撃をバチバチに弾き物ともしない装甲、のらりくらりと攻撃をかわし倒れてもぬるりと立ち上がり軽やかに飛び跳ねる軽快さ、ガラモンの設定や原典での動きを踏襲しつつもしっかり「戦闘」に昇華させたアクションはかなり良かったですね。背中の突起がアースガロンの装甲を突き破ってあわやコックピットのヤスノブに刺さりかけるシーンやその後風穴が空いたコックピットに外の光が差し込んだり外から見たアースガロンの装甲に突起が所々刺さったまま残ってるカット、スパイラルバレードが真っ向からへし折れる演出など、ガラモン自体に特別なアクションをあれこれさせずともその強力さを印象付ける外連の効きまくった魅せがたっぷりあったのもグッド いやでもアースガロンとブレーザーほぼ完封は予想してなかったな...() 状況次第では勝ってたまであるの恐ろしいぜ 前回レインボー光輪習得してなかったら破壊すらかなわなかった可能性あるのヤバい  思えばTVシリーズにおけるチルソニア遊星産のロボやそのコントローラーって、ガラモンやガラゴン、ガラQと人間の手でマトモに破壊されたことってほぼないので、ここにきてその頑強さの説得力がより増したね...ウルトラマンにも通用するレベルのバケモンかぁ...

 

と、SKaRDやブレーザーを大いに苦しめたチルソニアの侵攻でしたが、最後はアンリによってツクシの手が撃ち抜かれ、ガラモンをコントロールする演奏が止められたことで食い止められることとなりました。SKaRDとして人々を守るため、大好きなツクシの音楽を、彼を傷付け止めなければならないというあまりにも酷な決断をしなければならなかったアンリも、そんな決断をさせなければならなかったというのはありつつも、共に音楽のことで語らったアンリにこそ気付き自分を止めて欲しかったと願っていたであろうツクシも、そんな色んなことがない混ぜになってかアンリを止めるべく泥臭く突っ込んでいくしかなかった楽団の仲間達も、なんかもうありとあらゆるものが辛かったなここのシーン...アンリの銃声と共にツクシの演奏が途切れて緑色の血を垂れ流す異星人としての腕が顕になる(そして別のところでガラモンはその暴走をピタリと止める)、というのがまさにという感じで、こう...止めるべき侵略計画の終焉でありつつも、ツクシが「音楽を愛する人間」として奏でる音楽の終焉でもあるんだよな  ツクシ自身はこれで良かったんだと言わんばかりに「音楽に、音楽を愛する心に出会えて良かった」といった旨を語り、アンリや仲間達に「自由に在れ」と優しく語りかけるのだけど、それもまた余計に辛い

 

そしてラストは、ツクシが一人残った壇場に緞帳がゆっくりと下りて文字通りの閉幕、EDではモノクロの映像と共にツクシ達の演奏していたウルトラQのアレンジ OPテーマが流れるという特殊演出と共に締めとなりました。自由に在れと語ったアンリや仲間達を客席側に残したツクシの前に静かに幕が下りてそのままEDへ移るという文字通りの「閉幕」の演出、もう色んなものが込められていて凄く胸にきますね...叙情的なエピローグとかはなく、その後の余韻を敢えて視聴者に託してぱたりと終わるのが切なくもあり、ツクシという男の物語という舞台劇の終わりとしてなんだか沁み入るものがあり、というかなんというか ウルトラQにおけるチルソニア遊星人─セミ人間の末路を思えば、彼がどうなるか想像に難くないのがまた哀しみを誘う 幕の向こうで独り粛清されてしまったのかなぁ  これ以上語るのも野暮かもしれないけど、アンリはツクシのことは想っていてもどうか折れないでいて欲しいし、楽団の仲間達は彼の言葉を継いで自由に生きて欲しいと、そう思わざるを得ないオチであった

 

 

以上、ブレーザー第9話でした。「音楽」というテーマに感情や人生といった色んなものを乗せて重厚に紡いだ人間ドラマが強く沁みる、異色ながらもだからこそ滲む魅力のある素晴らしいエピソードでした。ウルトラシリーズでたまにあるしっとりとした人間ドラマ主体のエピの雰囲気に近い感じがあり、ブレーザーでもそういうの観てみたいと思ってただけに凄くグッときましたね。まさかガラモンの回で味わうことになろうとは思っても見なかったが...ウルトラQのオマージュをオマージュでござんみたいなあざとさを感じさせず今回のエピソードの中に上手く織り交ぜていたところも凄く良かったし、思わぬ楽しさが溢れていてとても面白いエピソードであった

 

というわけで今回はこの辺で。最後まで読んでいただきありがとうございます。 読んでて共感できたり楽しめたりしたところがあれば幸いです

気に入っていただけたら次回も読んでいただけるとありがたいです。感想をくださったり記事の拡散等をしていただけたりすると更に喜ぶぞ!!

ではまた